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給食後の昼休み。その自由時間で遊具を片手に外に遊びに行く人もいれば六年生として頑張らなければならない委員会の仕事をする人もいる。

「あ、ハラケンじゃない。何処行くのよ?」

後ろの教室のドアを開けると隣のクラスのフミエとヤサコが廊下にいた、他愛の無い話をしていたようだ。何も言わずに片手に持った本をフミエとヤサコに見せる。こんな事をしてる間に自由時間はあっと言う間に終ってしまう。

「図書室に行くんだ。それじゃぁ」

少し早口で言うと図書室へと足を進める。行きかう同い年のクラスメイトや学年の違う子たちはみんな外に向かって行った。窓側を歩く僕の視界には少しだけ映る外の景色。外から持っていた本へと視線を変える。
僕は図書室が好き、本が好き。それは本当で…でも本当は、僕は…きみのいる図書室が、好き。

歩いて行くハラケンの後姿を見ていると、フミエは怪しい目をしながら笑っていた

「フミエちゃん…何が面白いの?」

不気味な笑い方に恐る恐る聞く。パチンと指を鳴らしてからフミエは目の前に画面を開いた。画面に出ているのは今月の委員会別カレンダー。

「今週はさちが当番の日だわ」
「だから?」

首を傾げながら聞くヤサコの言葉にガックリと肩を落とし溜息をつきながら開いた画面をつついて消した。

「もぉ。ヤサコは鈍感ね…ハラケン、本持ってたでしょ?」
「うん、だから?」

きょとんとした顔でフミエを見るヤサコ。そんなヤサコに大きな溜息をつき、やれやれと首を振った。周りを見てヤサコの耳元に口を近づけ小声で話す。

「ハラケンはさちの事が好きなのよっ」
「えぇ!?」

大きな声と反応にフミエはヤサコの口を手で塞ぐ。周りから視線を感じながらまたヤサコの耳元に近づき「噂だけどね」と付け加え、ハラケンが向かった方へ視線を向けるが彼の後姿はもうそこにはなかった。


図書室のドア前
あまり図書室には人はいなく、委員会の人だけの時が多い。
息を呑みドアに手をかけようとした時、ドアが急に開いた。驚いた目で前を見ると、開いたドアの前には図書委員長のさちの姿。

「あの、えっと…」
「ハラケン、どうしたの?」

もう何度も行って会っているのに未だに緊張してしまう。
突然の登場に視線が泳ぎ、持っていた本を彼女に見せた

「本、返しに来たんだけど…」

それを見てにこりと笑い、どうぞと言って中へ案内してくれる

「あんまり人来ないから、図書室の先生に『来ないようだったら様子見て鍵閉めていいから』って言われたから…でも丁度いいタイミングできたね」
「うん。あ、本…」
「あ、はい。この本どうだった?面白い…って言うか悲しいお話でしょ?」

持っていた本をさちに渡すと、挟んであるカードに判子と日付を記入している。

「うん。感動した」
「男の子でこの本借りたのハラケンが初めてなんだよ!この本、恋愛小説だから女の子に人気あるんだよね」

受付箱の中に入ってる僕の図書カードを探しスタンプを押すと、それを差し出す。カードを受け取るとそれをポケットにしまった。

僕は毎週、さちの当番の日は毎日来て、本を借りて、返して、また借りて…それを繰り返す。じゃないと図書室に行く理由が思いつかないから。

「ねぇハラケン」
「何?」

静かな図書室。二人しかいない図書室はとても広く感じ、外から遊んでる生徒の声が小さく聞こえる。
受付にいるさちと目が合う、広い部屋に僕の心臓の音が響きそうなくらい、高鳴る鼓動。

「最近よく本読むようになったよね?今まであんまり本読んでる姿見たことなかったからさ」

「そ、れは…」

何で?と付け加え聞いてくる。心臓の音がうるさくて、体中が熱い。握った手は緊張で汗ばんでる。
何て返そう、そう考えても頭が真っ白で何も浮かばない。口は開くが言葉も出ない。なんて言おう、どうしよう。静かな図書室に響く時計の音がやけに大きく聞こえた。

「えっと…あれかな、すごく本読みたくなる時とかあるもんね!急に変な事聞いちゃったね、ごめん」
「そんな事ないよ。僕こそ黙ってごめん…」

俯くと、前からくすっと笑う声が聞こえた。顔を上げると嬉しそうに笑っているさち

「でも本当は嬉しいんだ」
「なんで?」
「いつも話相手として来てくれるし…それに私のお勧めする本とかも読んでくれるし!」

ありがとう、とにこっと笑いながら言う彼女はとても可愛い。今日この笑顔は今までの中で一番可愛い笑顔だと思った。
今なら言えるかな…僕の気持ち。でも「怖い」と言う言葉が僕を止める

(いつか言えたら…いいな)

図書室に来る理由。
好きな本を借りてお勧めされた本を借りて…読んだら返してまた新しい本を借りて。でも、僕が図書室に行く本当の理由はそんな理由じゃないんだ。

「さち…!」
「何?」

(僕、何こんな緊張してるんだろう…)

握った手をゆっくり広げ、目を合わせる

「お勧めの本、貸してください」

しまったばかりの図書カードを受付に出す

僕が図書室に行くのは大好きなきみに会いに行くため。いつか話せたらいいな…本当の理由を。



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