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僕には憧れてる人が二人いる。でも憧れの意味は違うもの。
一つは目標としての憧れ、もう一つは…恋愛感情としての憧れって言うかなんかよくわからないけど。
好きって言うより憧れって感じなのは自分でもよくわからないんだよね。

「慎城さん、慎城さん、慎城さ〜ん!」

大きく手を振りながら走る先には森次さんと仲の良い特務室メンバーの慎城さん。
最近慎城さんは情報調査の任務でJUDAと任務先を行き来していた。そのせいか時間が合わなくすれ違いになって姿を見るくらい。
でも。今日でその任務は終了!報告書を提出して出てくるところを待ち伏せしてたんだよねー!そんな事本人には秘密だけど。

「どうしたのサトル?そんなに走らなくても、あたしは逃げないから安心して」

笑って、久しぶり、と付け加えた。
僕は慎城さんの笑った顔が好きで僕も笑っちゃうんだよね。
近い距離を走ったせいなのか顔がすごい熱い、胸もどきどきする

「久しぶりだったんでつい…あ、あと…お、お帰りなさいっス!」
「ただいま」

あー、もう。言葉が続かないよ
どうして慎城さんを前にするとこんなに緊張するんだろ…話したいことは沢山あるのに本人を前にして全部どっかに忘れてきたように頭の中が空っぽになる。

「慎城さん!」
「もー、付き合い長いんだからさちでいいのに」

本当はそう呼びたいのは山々なんだけど、恥ずかしいって言うか…その…怖い人がいるから呼べません。なんて言えないんだよなぁ。もちろんその人は僕たちの身近にいる人で…

「ほら、言ってみて?」
「え、あ…じゃぁ……さち、さん」

顔を見ながら言えず、少し目を逸らして小さく言った。それを聞いてうんと頷くと明るく笑ってくれる

「うん、良く出来ました!」

恥ずかしかったけど喜んでくれたなら…それでいっか。僕まで嬉しくなってくるし。
さちさん、か。今度から呼べたらそう呼んでみよう…かな?
笑っている慎城さんに僕も笑って返した。

「山下」
「げ、森次さん…」
「あ、玲二!」

現れたのは憧れの先輩森次さん。
僕もこんな人みたいになれたらいいなーとは思うけど、兎に角!今の僕の中では敵なんだ。
だって、慎城さんと仲良いしちょっと羨ましかったりもする。って言うかこの人は僕と慎城さんが話していると必ず現れる…今もそうだ、突然現れる。
それも怖いけどなんて言うか…一番何が怖いって言われたら、森次さんの圧力だ。

「年上で先輩でもあるさちを名前で呼ぶとは…」
「それは誤解っス!ちゃんと許可もらいましたからっ」
「フン」
「もう、可哀想でしょ玲二。サトルいじめないでよね!」
「わわっ!」

そう言って慎城さんは後ろから僕を引き寄せて守るように軽く抱きしめた。
シャンプーの匂いとつけている香水の匂いが柔らかく僕の鼻をくすぐる。
高鳴る心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかって心配…だってバレちゃうよ、僕のキモチ

「あっ」

慎城さんの声が耳元で聞こえ、ゆっくりと僕の体は離された

「ごめんね、私これから行かなきゃいけないところあるんだった!遅くならないうちに帰ってこれると思うけど。またいろいろ話し聞かせてねサトル!玲二はサトルの事いじめちゃ駄目だからね?」

じゃぁねと最後に軽く手を振りながら僕達に後姿を向け小走りで去っていく。行ってらっしゃい!と向けられた背中に言った。そして角を曲がって見えなくなるまで僕等は見続けた。

曲がる時に一瞬だけこっちを見て笑ってくれた…ような、そんな気がする。僕は首の後ろに両手を組んだ。
静かになった廊下、気まずい雰囲気…隣を見れば森次さん。ふと横を見た瞬間に目が合った。
何か言われそうで怖いと思い、その場から去ろうと足を動かす

「じゃぁ僕もこれで」
「山下」

歩き出そうとした足がぴたりと止まる

「な、なんスか?」
「私から一つ忠告しておこう」

そう言って森次さんは眼鏡を外しお互い向き合う形になる。
今日の森次さんはいつもよりもちょっと怖い…眼鏡を外したから…かも?
僕はごくりと唾を飲み込んだ。

「負けないからな」
「え?」

そう一言残し森次さんは眼鏡をかけ直しながら背中を向けて去って行く
でも、僕にはそれが何を言ってるのかはわかってる。僕にとっても森次さんにとっても
大事な人っスからね。

「いくら憧れの先輩でも僕だって負けないっスからね、森次さん!」

最強で最高の先輩、そして敵でありライバル…なんて、言い方は格好いいけど、実際大変で…
フと良い匂いがした。それは未だに残っていた慎城さんの匂い。やっぱり僕は、慎城さん…いや、さちさんが好きなんだ。
森次さんに負けられない譲れない、これは男と男の勝負。歳の差なんて関係ない。

「諦めないっスよ、森次さん!」

それでもやっぱり、森次さんの圧力にはビビるッス



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