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消失

 「お母さんに、会いたい、顔が見たい」と勇気を奮った少女に説明できようはずもない

 しかし、検死室の中は文字通りからっぽで、誰かが侵入した形跡もない






 そのまま、会議に引きずり出されてかなり遅くなってしまった





 あまりの証拠のなさ、厳重な警備の中を掻い潜った犯行から、犯人はアリスの可能性が高いという結論らしい

 犯人がアリスであることから、アリス学園にも捜査協力の要請を掛ける





 あっという間に、犯人の目星が付く





 アリス学園の反体制組織・・・今のところそれ以上の情報はないらしい

 構成員やその数、アジトの場所といった情報は何1つわからない

 何もわからないのに、どうしてこんなに簡単に犯人と断言できたのだろうかと、違和感を感じる





 とりあえず、いつまでも1人にしておくわけにはいかないと名前を待たせる休憩室へと入る

 また、元の無表情・・・一体、私のいない間に何があったのだろうと不安が襲う






 「・・あ、あのね名前ちゃん・・」

 「お母さん、居なくなっちゃったんだね・・」





 名前が休憩室を黙って出て行ったとは思えない






 
 「どうして・・?」

 「聞いたの」

 「・・・だ、誰に・・」





 スッと指さした方向は、窓

 「アリス・・・」





***
**
*





 母の悲報を聞かされた時、頭が真っ白になった



 

 一緒についていてくれた、婦警さんが喉は乾かないか、お腹は空かないか、一緒に眠ってあげようかなど、私を気遣う質問をいくつかしてくれたのを覚えている






 でも、どれ1つまともに答えた覚えはない

 辛抱強く、私の隣で座ってくれていた

 大丈夫?と聞かれないことが救いだった





 その日の夜、夢を見た

 いつのまにか、アリスを発動していたんだと思う

 お母さんに会いたいと枕を握りしめて




 
 お母さんは泣いていた、謝っていた





 「ずっと一緒に・・・叶わなくなってごめんなさい

 もう、会えない・・・でも、ずっと傍にいるから、見ているから・・・

 大好きよ、名前」





 自分のアリスが作った、ただの夢かもしれない

 それでも、母さんにはもう2度と会えないことは理解できた





 目が覚めると、涙で枕がぬれていた




 

 婦警さんは私のことが気懸りで仕方がないのだろう

 しかし、意を決したように

 「ここで待ってて、必ず戻って来るから」

 私の手を握り、安心させるように真っ直ぐ目を見つめながら





 足音が遠のくのを確認した後

 「真実を見せる窓のアリス"」




***
**
*





 昨日も、母さんは仕事に行ったはずだった

 なのに、どうして?私よりも先に家に帰っていたの?





 時計の時刻が昼の3時を示している

 母さんが大きな包みを抱えて楽しそうに帰って来る

 ・・・そうか、昨日は私の誕生日・・・




 いそいそと誕生日パーティの準備を進めている





 ピンポーン




 
 少し驚いたようにする母さん

 「・・・名前?早いなぁ、間に合わなかったかぁ」

 と残念そうにする、もう一度チャイムが鳴り、慌てて玄関へと向かう




 ガチャリ

 ドアを開けて息を呑んだ、顔は驚きで満ちている




 「・・・どうして・・」




 ハッと我に返り、慌ててドアを閉じようとするが、ドアの隙間に足をねじ込まれ、阻まれる

 背が高く、スラっとした体躯はおそらく男





 それからの出来事は、あっという間だった




 どたどたと部屋に押し入って、母さんの首根を掴み、引き寄せて後ろから腕を回して持っていた包丁でバッサリと首を掻き切った


 大量の血が噴き出す






 カンカンカン


 「大畑さーん?何かあったの?」

 階下に住む大家さんの部屋に足音が響いたのだろう、階段を駆け上って来る音がする





 母さんが男の手を力いっぱい振りほどく





 チッと舌打ちすると男は、瞬間移動をして消えた

 ぐったりと倒れこむ母さん





 ゆらりと窓ガラスが揺れる




 映像は場所を変えて、真っ白なベッド





 青白い顔は、安らかに眠る母さん

 そこに、部屋に押し入った男とは明らかに違う男がヒュッと現れる





 母さんの頬をそっと撫でる

 そして、母さんを抱えて瞬間移動したところで、映像が途切れる





 途切れた映像の後に残った、ただの窓ガラス

 その向こうには、映像に映った男が人一人は余裕で入れるだろうボストンバッグを車に積んでいる姿



 男には他に、6人の連れがいた



 母さんの後を追う勇気が出ない、そこに見知った男の顔があったから・・


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