潜入
一命を取り留めた今井蛍
しかし、Zが撃ち込んだのはウイルス入りの銃弾で、最適な抗ウイルス薬が判明するまでは、依然として予断を許さない状況らしい
いつも金魚の糞みたいにくっついて回っている水玉は、両手で顔を覆って泣きじゃくっている
一緒に現場にいた苗字は、未だ現状に頭が追い付いていないのか焦点の合わない目で、一点を見つめたまま、ぼんやりとしている
苗字の横顔は、息をしているのか疑わしくなるほど、まるで人形のように無表情であった
なんて声を掛ければいいのか分からずにいると
「お〜い!大丈夫か?けがはねぇか?」
特力代表のバカ殿と、野田が現れた
バカ殿は、視線を合わせるように苗字の前に屈み、手をそっと頭にのせる
「チビのくせに無茶すんな、怪我がなくてよかった
友達も絶対助かる!」
「..絶対..?」
「あぁ、絶対だ!名前の得意技だろ?
心を込めて口から発した言霊は?」
「...絶対叶う」
ボロボロと堰を切ったように咽び泣く
「..ぜ、ぜったい、ぜったいに、だいじょうぶ..」
何度も、何度も小さな声で祈るように言霊を紡ぐ
***
**
*
殿と野田先生に連れられ、特力の教室にやってきた初等部生徒たち
真っ赤に目を泣きはらした蜜柑は殿に抱き上げられている
蜜柑ほどではないにしろ、頬に泣き跡を残した苗字は翼にギュッと抱きしめられ、ずいぶんと心配をかけたのだから仕方がないと甘んじて受け入れている
「殿先輩、穴があるって本間?
うち、その穴、探してくる!
あいつら捕まえて、蛍の特効薬と委員長のアリスを取り返してくる!」
「アホなこと考えんな!チビのくせに!あぶねぇに決まってんだろ!
殿も余計なこと言うな!こいつら、その気になるだろ!」
「..翼先輩、私も行く」
「んなっ..馬鹿名前!
そんなの許せるわけねぇだろ!」
翼の名前の服を握る手に少しだけ力が入る
「それでもいい、あいつらに会いに行く..」
「....んぐぅ〜っ!分かった!
手伝う!だから、無茶はすんな!...頼むから」
こくんと無言で小さく頷く名前の姿に、翼は少しだけ不安を募らせる
***
**
*
名前、蜜柑、棗、ルカは高等部に潜入するため、舐めるだけで5歳年齢を重ねることができるガリバー飴を持って、高校生にいざ変装
翼は、中等部生にしては背が高いため、そのままの姿に高等部の制服を着用する
「お、お待たせしました〜
先輩、うち、ちゃんと高校生に見えるやろか〜」
「おぉー、上出来、上出来!」
「似合ってる、似合ってる!
・・名前と一緒じゃなかったのか?」
「名前、部屋に忘れ物取りに行ってから行く言うてたよ
名前、めっちゃ綺麗に・・」
「・・遅くなってすみません・・」
伸びた手足、もともと大人びた表情が5歳年齢を重ねたことで顔の様相にぴたりと当てはまる
「・・・名前」
「・・翼先輩、今はガリバー飴で体がギシギシするんです
抱き付かないでくださいね」
先に釘を刺す名前
「日向君、乃木君・・蜜柑もずいぶん背が伸びてたけど、2人も大きくなるんだね
高等部の制服よく似合ってる」
「・・・うるせぇ、チビ!」
「・・いたた、髪、引っ張らないで」
「名前ーー!」
結局、刺した釘は糠に釘で翼にむぎゅーっと抱きしめられる
それを、殺気を込めて睨み付ける赤い瞳
こんな、状態で高等部の潜入は上手くいくのだろうか・・と諦めたようにグレーの大きな瞳が宙を彷徨う
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[mokuji]
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