人神 | ナノ


第六戦

 


ポタ、ポタ、と一段上がるたびに落ちていた血の雫も今は乾いて固まった。

真っ白な引き戸を勢いよく蹴り飛ばす。

大きな音を立てて扉は、凄い速さで真っ直ぐ飛んでいった。

が、飛んでいった扉は真っ直ぐ壁に当たる前に、右へと角度を変えて壁にぶつかった。

白い部屋に、白と赤の子供。



「次の神は白か」

「何だ、土墜はやっぱやられたか」

「お前は」

「黙憐」



黙、憐。

弟と名前が似ている、と言うか、ほぼ一緒だ。

ややこしいな。

あぁ、そういえば。



「いつだったかMZDが白憐と言う名前を言っていた」

「あぁ、そりゃ俺様だ」

「そうか、じゃあ俺も白憐と呼ばせてもらおう」

「別に構わねぇが」



そんな事より。

チキ、と刀を構えて白憐を睨む。

白憐はハァ、と大きなため息をついた。



「気が早ぇな…なぁ、魂」

≪どーでもいいんだけど、今回自分の出番無くていいじゃん≫

「そうか?」

≪刀相手とか痛そう≫

「…っだよなっ!魂がそういうなら今回は見てろよ!」

≪冗談だけど≫

「いーや、もうダメだ魂はそこで見てろ」

≪別に見ててもいいけど、多分負けるよ≫

「俺様が?」



確か神は影を武器にした筈だ。

と言う事は、俺と戦うのに武器は必要無いと思っているのだろうか。

むしろそう思っていてくれるのならありがたい。

楽に進めるからな。

油断しきっている白憐に思い切り斬りかかる。



「おせぇ」



あっさりとかわされてしまった。

隙だらけの俺の腹に白憐の蹴りが入る。

子供の姿をしているくせに、その蹴りは異常なまでに重かった。



「っがはっ…!」

「弱ぇ弱ぇ、そんなんじゃ俺様に勝てねーぜ」

≪…あれ、コレホントに自分の出番無い?≫



部屋の中心から、壁に激突するほどの蹴り。

侮れない。

否、相手は神なのだ。

侮るのが間違い。

立ち上がろうとした瞬間、左の手の平に何かが当たった。

何だ、と思って見れば、棒。

ただの棒じゃない、これは、錫杖?

錫杖が、手に突き刺さっている。

だが痛みがない事に、慣れはじめていた俺は何も言わない。



「何だ、喚かねぇのかよ」

「これ位で喚きなどしない」

「下の階で大分削られてんな…俺様が出る必要無いんじゃね?」

≪やんないと仕事増えるよ≫

「は?」

≪って言ってたけど≫

「めんどくせ」



白憐は仕方ねーな、と面倒そうに呟くと目の前に居た。

部屋の中央に居た筈なのに一瞬で、俺の目の前に。



「今のお前にある感情は何だ」

「感情」

「そう、感情だ」



何があるのだろう。

分からない。

怒り、悲しみ、喜び。

どこにも見当たらない。



「何、が」

「…言えねぇほどなのかよ」

「分からん」

「じゃあ直接見せてもらうぜ」



と、そう言って右手を俺の頭にポン、と置いた。

手が置かれているだけなのに、気味の悪い頭痛がしだした。

何か、頭の中を勝手にまさぐられる様な。



「…魂」

≪あいよ≫

「久々に働くぞ」

≪いつものは違うんだ?≫

「あんなの働いた内に入らねぇよ」



俺の中の何を見たのか。

白憐は錫杖を俺の手から引き抜くと、また一瞬で部屋の中央辺りに移動して、何やら儀式的なものを始めた。

白い光と共にゴゴゴ、と音がしたかと思えば誰かが上からゆっくりと降りてきた。

降りて?違う、人は磔になっている。

磔になっている人の姿はよく見えない。

少しして、光がだんだんと弱まってきた。

灰の髪、褐色の肌、水色のマフラー、白い着物。

あれは。



「黙…」

「早くこっち来いよ、六」

「何故、黙が」



何故、弟が。

手足には釘が刺してあり、ポタ、ポタと血が滴っている。



「よく考えてみろよ」

「何を」

「お前が一番最初に殺ったのは誰だった?」

「…」



誰。

薄らぼんやりとしか思い出せない。

いや、この今、現在進行形で記憶が薄れている。

と言うより、この塔に入る前の記憶がない。

どう言う事だ。




「お前と親しい奴らだったろ」

「思い出せない」

「…あのやろ………まぁいい…で、次に殺ったのは」

「…誰だ」

「清掃業の双子だよ」

「双子」



双子と言えばKKとAKしか居ない。

あいつ等も俺は斬ったのか。



「そう、で次に子供2人と鬼、で土墜の次に今ここだ」



合計で



「九人」

「内、お前と親しかった奴が6人だ」

「だから、何故弟が」

「いい加減分かれよ。お前と親しいやつが巻き込まれてんだ」

「………」

「お前の肉親だって、巻き込まれて当然だろ?」



そう言うや否や、白憐は錫上を黙の腹に突き刺した。



「黙!」

「っ…!」

「へぇ、流石六の弟なだけあるな。叫びもしねぇとは」



けたけたと笑っている白憐に何かがこみ上げてきた。

まだ、残っている。

俺の中の感情は。


少なくとも、怒りの感情だけは。


刀をギュ、と握り締める。

許せない。

楽しそうに笑う白憐が。

許さない。

そう



「許さん」



まずは刀を思い切り白憐の心臓目掛けて投げる。

刺さったのを確認したら、白憐に向かって走り飛び蹴りをする。

倒れる一瞬の間に、刀を刺したまま横に薙ぐ。

元から赤い着物にべっとりと血がついた。

何が起きたのか、未だ把握できていないようで、白憐は吐血をしながら目を見開いて固まっている。

そのまま白憐は放置して黙に刺さったままの錫杖を引き抜こうと、錫杖に手に触れた。

すると、錫杖は物体から液体になったかのように床にぼたぼたと落ちて、スッと白憐の元へ移動し始めた。



「黙」



名を呼んでみた。

返事はない。



「黙」



背伸びをして口元に手を当ててみた。

息は無い。



「黙」



そのまま手を心臓の場所へと移動させてみた。

動いていない。

動いてない。

何かが、こみ上げて来た。



これは、何だ。



パチン


すぐ後ろの方から、指を鳴らす音がした。

目の前の黙が空気に溶けるようにして消えた。


消えた。



滴っていた血の跡も無い。



「あーもう無理ー俺様無理ー」

≪だから言ったじゃん≫

「今のは」

「ただの幻覚だ」

「黙は」

「ここにはいねぇよ。この塔に居るのは確かだけどな?」



あの光景が贋物だと聞いて少しほっとした。

次の階へと続く扉が開いた。



「もう終わりか」

「俺様の仕事はここまでだからな」

「あれだけで戦えんようになるとは」

「うるせーよ。神とは言え構造は人と一緒なんだ」

「ならば首を刎ねれば、心臓を抉りだせば、死ぬのか」

「首はどうか知らねぇが、心臓取ったくらいじゃ無理だな」



仰向けに倒れたまま、けたけたと笑う白憐を一度見て、何も言わずに次の階へと歩を進めた。



「魂ー癒してくれー」

≪自分の責任でしょーに≫

「えー癒してくれよー俺様疲れたー」

≪めんどくさーい、あの人に癒してもらえば?≫

「嫌だ」

≪即答しやがった≫

「俺様は魂がいいんだよー」

≪あーはいはいまだもう一仕事あるからその後ね≫

「よし俺様頑張る」




そんな会話を聞き、次の相手は誰なのだろうと少し期待をしながらゆっくりと階段を上っていく。






喜○○楽
(感情に任せてたら)
(神なんてのは務まらねぇ)
(特に、守護神なんてのはな)
(そういうのは)
(消しちまうに限る!)








――――――――――*
皆が持ってるきどあいらく
さて、問題です
喜怒哀楽の中で無くてはならない感情は
どれでしょう?



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