人神 | ナノ


第四戦

 


階段を少しゆっくりとしたペースで上る。

たどり着いた四つ目の部屋に扉は無かった。

部屋の真中には青いマフラーをした学生服のメガネ。



「また子供か」

「言っておくが、下の奴らと一緒にしないでもらおう」

「じゃあお前は何だ」

「鬼だ」



鬼だ、と答えたメガネは、スラリと刀を抜いた。

ついに相手は人ではなくなった。

手加減もそろそろ面倒になってきた所だ。

ふ、と笑みがこぼれた。



「鬼、か……あえて問おう、手加減は必要か?」

「無用、たかが人間に手加減されても困る」

「…いいだろう」



つい先ほど手に入れた刀を見るのにも丁度いいだろう。

そう思い、愛刀よりかなり軽い刀を抜く。

鬼は刀を見て少し驚いていた。



「…その刀は」

「先程、頂戴した」

「二人とも斬ったか」

「当たり前だ」

「そうか」



それなら何も話す必要はないな。



そう聞こえたと思った瞬間、鬼が消えた。

否、後ろにいた。

移動の早さに少し驚きながら、飛んでくる一太刀、一太刀を受け流す。

やはりそれなりに強いようだ。

が、俺の本気よりはまだ弱い。



「隙あり、だ」

「なっ…!」



俺を斬ろうと必死になっている鬼は隙だらけで。

飛び掛るように斬り込んできた所を軽く避け、横腹に蹴りを一発。

少し力を入れすぎたせいか、壁に激突して、床に倒れた。



「ッゲホッゲホッ!…くっ…」

「…力加減が難しいな」



予想以上に吹っ飛んだ鬼を見て、軽くぴょんぴょんと飛んでみる。

下の階で軽くなった体は、軽く飛んでいるだけなのに結構高めに宙に浮く。

ここで慣らしておくべきだろう。

既に相手が人ではないのだから、次の階以降も人外が出て来る筈だ。

そう考え、刀を鞘に収めた。

フラリ、と立ち上がった鬼は、その様子を見て眉間に皴を寄せる。



「…手加減のつもりか」

「この体の軽さに慣れたいんでな」

「なめやがって…」



ギリ、と歯軋りして此方を睨む。

どう出てくるのか見ていると、いきなりメガネを床に叩きつけて足で粉々にした。

バキバキッ、とレンズとフレームの割れる音がする。



「…何をしている?」

「この眼鏡は、俺の力を吸い取って俺が人だと思わせる為のものだ」

「それを割ったのか」

「そうだ、もう必要ない」

「お前も本気を出していなかったんじゃないか」

「半身さえ取り込めばこの眼鏡、捨てるつもりは無かったが」

「ほう、まだ不完全なのか」

「…だが、人間如きに負けては鬼の名折れだ」

「なるほど…そうだ、一つ問い忘れていた」

「…何をだ」

「名、だ」

「そんなものを聞いてどうする」

「俺だ知りたいだけだ、強者の名をな」

「物好きだな」

「そうか?」

「…ナカジだ」

「ナカジ、名を聞いたばかりだが、そろそろ終わりにするぞ」

「何?」



相手が動く前に素早く愛刀を抜き、まず左足の甲を貫く。



「っ?!」

「初めから全力で来なかった時点でお前の負けだ」



喋る暇も与えず、右足の甲、左膝、右膝、左太腿、右太腿と交互に刺していく。

だが、流石は鬼というべきか、既に足は使い物にならない状況であるにも関わらずしっかりと立ったままだ。

少し感心していると鬼が動いた。



「感心している場合か?」



目の前にいたと思えば、背後から気配。

紙一重で突きを避け、そのまま鬼の刀を素手で掴む。



「な…」

「これで逃げられんだろう?」



鬼が刀を手放す瞬間、マフラーの上から頸部に一振り。

切れた首から鮮血が噴出す。

マフラーも、顔も、服も、俺も真っ赤に染まる。

首を斬られれば鬼であっても効果は大きいようだ。

鬼はそのまま崩れ落ちるかのように倒れた。



「鬼は不死身と聞くが…死んだか?」



もしそうなら、もう少しやりたかったが。

少し残念ではあったが、血を袖でふき取り、鞘に収めて、次に行こうと背を向ける。



ドスッ



何かが刺さった。

目線を階段から己の体へと向ける。

心臓からは大分ズレていたが肺には、しっかりと、刀が刺さっていた。

少し息苦しいが、痛みは一切無い。

背後から刺さった刀を無造作に抜き、床に投げ捨てる。

振り返るとマフラーが俺の頭目掛けて飛んできた。

とっさにしゃがんで避けたが、何とも不思議な光景だ。

マフラーが、まるで自我を持っているかのようにうねうねと動いている。

ナカジ自身は床に倒れたまま動いてはいない。

やれやれ、とため息をつき、刀を二本抜いて、瞬時に粉々にする。

何も動かなくなったのを確認して、二本の刀はそのまま手に持って次の階へと向かった。






絶望?
(そんなもの最初から無いようだが)
(念のためだ、念のため)
(むしろ、絶望を与えた側か)
(やはりコイツこそ)
(新たな神にふさわしい!)








――――――――――*
何があろうと
絶望してはいけない
前だけを、敵だけを見て
ただそれを貫き通せ
 


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