人神 | ナノ


第三戦

 


また階段を駆け上がる。

今度の扉は木で出来ていた。

その扉を軽く蹴り開けると、部屋の壁一面に銃。

しかもよく見ると火縄銃ばかりだった。



「…また銃が相手か」

「そうつまらなそうな顔しないで相手してよ」


一度部屋を見回して、誰もいないのかと思っていると、次の階への扉の前に人。

一人は子供でもう一人は青年だった。

俺からすればどちらも子供である事には変わりないのだが。



「今度は銃を使う子供が二人か」

「…マサムネ、僕は普通にイラッときたけど」

「流石の俺様も、今のは許せねぇな」

「どっちが?子供扱い?それとも見た目的な強さの判断?」

「どっちもだ」



どうやら両方の癇に障ったらしい。

まぁ、そんな事はどうでもいい。

さっさと消して、次の階へ行かなくては。



「貴様らを相手している時間すら惜しい、どけ」

「譲れねぇな、ここでアンタを倒せば俺様の夢は叶う」

「僕も譲れないね、ここでアンタを倒せば全て僕のもの!」

「…死に急ぐか」

「死ねねぇよ」
「死ねないよ」

「だったら今すぐ斬り捨てて行くまでだ」



素早く刀を抜き、間合いを詰めながら様子をみる。

だが不思議な事に何もしてこない。

余裕の表れなのか、先ほどの言葉がただの見栄なのか。

どちらであろうともやらねば話は進まない。

まず最初に赤い服の小僧に向かって斬りかかる。



「あれっ、最初から僕なの?」

「むしろそっちが死に急いでるぜ」

「僕はマサムネに行く方が死にたがりだと思うけど」



小僧は、会話を交わしながら、背にしていた火縄銃で刀を受け止めた。

先ほどの考えが前者である事を知りつつ、攻撃の手は緩めない。



「うわ、うわわっ、ちょ、待っ」

「何だ、苦戦してんじゃねーか?助けてやろうか」

「いらないって!」

「見栄張るんじゃねーよ」



それなりに力を出してはいるが全くダメージが与えられない。

こんな奴を相手にするのは初めてだ。

これほど強い相手を名も知らぬまま倒すのは、己が許せない。

一先ず、一度後ろへ退く。

すると先ほどまで攻撃を受けていた赤い小僧は首を傾げていた。



「…あれ?もう終わり?」

「何だ、案外つまんねーな」

「違う」

「じゃあ何?」

「俺は六だ、お前達の名を聞きたい」

「…へぇ、礼儀のなってねぇ奴かと思ったらそうでもない…か」

「僕にはよく分かんないけど、まぁ、名前くらいなら」

「俺様は義賊の長、マサムネだ」

「僕は一応、部下のダイ」

「ちょっと待てダイ、何だ一応って」

「何か普通に部下っていうの嫌だから」



二人の会話などを見て、いいライバルと言った所だろうか。

なるほど、手強そうだ。

もう少し、本気を出すとしよう。



「先は悪かったな、もう少しばかり本気を出すぞ」

「…十分なめてんじゃねーか」

「いいんじゃない?やりやすくて」



それもそうか、とマサムネが呟くと同時に、何かが俺の右頬を掠めた。

後ろの壁を見ると小さな穴。

どうやら、銃弾だったらしい。



「来いよ、六!俺様が直々に相手してやるぜ!」

「ちょっ、人の獲物取らないでよね!」

「うるせー!お前苦戦してたじゃねーか!」



いきなり二人は喧嘩し始めた。

が、口では喧嘩しているものの、攻撃は確実に俺のみを狙っている。

喧嘩するほどなんとやら。

などと余裕ぶってはみるが、マサムネの銃撃が一向に止まない。

マントの下から顔を覗かせている大量の銃器は、休む事なく弾を吐き出し続けている。

見える限りの銃弾を避け、刀で叩き落してはいるがこれは凄い。

ふと気付いた。

ダイがいない。



「もーらった♪」



左太腿に鋭い痛み。

足を、撃ち抜かれた。

思わずバランスを崩す。



「しまっ…!」

「油断しすぎだぜ、六」



体中を銃弾が掠め、もしくは貫通していく。

俺の体だからこそ分かる。

一つの鉛玉が、俺の体の中に残っている。

確実に、俺の、心の臓に。



「が…」

「…マサムネー殺しちゃってないよね」

「さぁな…一応全部外したつもりだが…ただ」

「何さ」

「最後の一発だけ、勝手に心臓を撃ち抜きやがった」

「は?!」



不思議だ。

声ははっきり聞こえる。

目もしっかり見えている。

痛みはしっかりと感じられる。

だが、何故だろうか。

己自身に死という感じが一切無い。

心臓に残ったままの鉛玉も感触がある。

普通の人間ならばこれで死ぬ筈なのだろう。


何故俺は死なない。



「…ダイ、少し気になったんだが」

「あぁ、奇遇だね僕も」

「心臓を撃ちぬいたのは見たんだ俺様」

「あぁ、確かに心臓の所が一番赤いね」

「普通なら死んでるはずだろ」

「アウトだね」

「何で、呼吸をしてやがるんだ」

「知らないけど、あの鬼みたいな事になってるのは確かだよ」



痛い。

痛い?

痛みがない。

いや、何故か喉が焼け付くように痛い。

先ほどまで痛みも何も無かった喉が焼けるように痛い。

胃から、何かがこみ上げてくる。

思わず起き上がった。



「っ…う、ゲホッゲホッ」

「…信じられるか?」

「…信じたくないんだけど」

「ゲホッ…ヴェホッ……ハァ」



口から出て来たのは、血と、胃液と、鉛玉。

何故?



「なるほど、もう人じゃねぇってか」

「とりあえず全身に撃ちこんでみる?」

「とりあえずな」



また銃弾が飛んでくる。

聞こえた音は先ほどの倍以上。

俺は瞬時に刀を手にして全てを叩き落した。



「?!…ありかそんなの」

「うわーもうやだー…」

「何だ、お前諦めんのか」

「…いや?」




「なるほど、KKが言いたかったのはこう言う事か」



下の階でKKが言い切れなかった事はこの事なのだろう、そう思った。

何となく。

それにしても体が軽い。

刀も軽い。

血と一緒に何か重いものが流れ出たようにも感じる。

性懲りも無く飛んでくる銃弾を横目に、軽く飛んでみた。



「あれっ消え」

「てねぇ!後ろだ!」

「えっ!?」



一瞬。

刀の先にはダイの心臓、刀の柄の先にはマサムネの喉。

俺の心臓と頭に銃。



「どちらかを犠牲にすれば俺に勝てるかも知れんな」

「……マサムネ、後頼んだよー」

「ダ」



銃声と何かを蹴り飛ばす音。



「っ!」

「ほう、いい対処だ」



ダイは、己の体で刀を受けながら、マサムネを蹴り飛ばし、俺の心臓に向かって銃弾を撃ち込んだ。

中々素早い動きだったが、今の俺には鉛玉など無意味で。



「…これ、返すよ」

「………」



心の臓に刺さった俺の刀を、思い切り引き抜き、投げて返した。

もはや立っているのは何かの強い想いなのだろう。



「まさむねと、いったいいちで、たたかってあげてね」

「…それは」

「じゃないと、ぼく、しにきれないから」

「……無理だ」



言い切った俺を驚きの目で見つめるダイに一太刀。

ドシャッ、と二つに分かれた体が床に横たわる。

躊躇いも情も全て下に置いてきた。

俺は何としても勝ち続けねばいけない。



「だから、容赦はしない」



例え、子供でも。



「待った」



刀を振り下ろす瞬間、手と一緒に出された言葉が俺の刀を止めた。



「何だ」

「義賊とは言え、一応俺も侍の端くれなんでな」

「一騎打ちでもしろと言うのか」

「そうだ」

「………いいだろう」



死ぬ間際だと言うのにその目は、ギラギラと輝いていた。

何かを忘れている気がする。

何かを捨ててしまった気がする。


思い出せない。



だが、そんな事を考えている暇はない。

目の前の事に集中しなければ、いつこの状況が覆されるか分からない。



「行くぜ」

「来い」



お互い、一振りの刀だけを手にその時を待つ。



パキ



「………な、に…?」

「悪いな、先を急いでいる」



ガシャン、と刀の落ちた音のすぐ後にドサリ、と人の倒れる音が聞こえた。

袖で血を拭って刀を鞘に収める。

ふと、マサムネの持っていた刀を見て、何となく手に取った。

己が何を考えたのか、それすら分からないまま、その刀の鞘をマサムネの体から取って己の腰に差した。

そして刀を鞘に収めた。



新しく増えた刀を見て、不思議な気持ちになりながら、次の階へと向かった。






生への執着心
(命など惜しむべからず)
(それはただのエゴ)
(惜しいなどと思うだけ無駄)
(何故ならその体はもう)
(ただの体ではないのだから)








――――――――――*
絶対不利の状況
命を惜しめば命を無くす
命を捨てれば命を拾う
逆などこの場所ではありえない



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