第二戦
微塵の後ろめたさも感じず、階段を駆け上がる。
いつの間にこんなに薄情になったのだろう。
やれやれ、と己に呆れていると2階についた。
鉄で出来ていそうな扉を、足で蹴り開けると大きな柱が何本かある部屋の真中に双子の姿。
「次はお前らか」
「よぉ、六、悪いが今回は手加減しねぇぞ」
「えー…俺帰りたいんだけど」
「えぇい、働けマダオ!」
一人はとてつもなく面倒だ、と言わんばかりにその場で寝転がり、もう一人は銃器を手にして、寝転がっている片割れを呆れつつ叱咤していた。
「暢気だな…今どんな状況なのか、分かっているのか?」
「多分微塵も分かっちゃいねぇだろうな」
「そうそう、何で俺らこんなとこに閉じ込められてんの?」
いきなりガバッと起き上がると、その場で胡坐をかいて首を傾げながら問いかけてきた。
その様子を見てKKは心底呆れているようだ。
少しだけ同情しつつ、刀を抜く。
刀を手にした俺を見て、双子の目つきが変わった。
「何かすごいやる気満々って感じだな」
「やる気の『や』は殺な、殺」
「俺マジでやんの?」
「だから働けっつーんだよ」
「頑張れ弟」
「…六、コイツ今すぐ叩き斬ってくれ」
俺はすぐに斬られてやらんがな、と付け加えつつ、KKは銃器を此方へと向ける。
遠距離相手にどうしたものかと思っていると、今まで胡坐をかいていた兄が立ち上がり、何かを投げた。
投げつけられたものは紙一重でかわし、後ろの壁に突き刺さる。
何が投げられたのか見てみると、洋食の主役、フォークだった。
「…何故」
「…いい加減普通の武器使えよ」
「俺にはこっちの方が使いやすいんでな」
「趣味悪いな」
「お前に言われたかねぇよ」
どっちもどっちだと思ったのは内緒だ。
しかし、食器とはいえ立派な凶器。
近・中距離を兄が足止めして、遠距離の弟が狙い打つ、か。
また一段と面倒な相手だ。
「だが、この命はまだくれてやれんな」
「なぁ六」
「何だ」
「引き下がっちゃくれねぇのか」
「何故だ」
「お前がここから出て行きさえすれば終わるんだ」
「…もう、遅い」
既に、下の階にはあいつ等がいたのだから。
やると決めた時から、後戻りなど出来る筈もないのだ。
(戻れないのなら、ただ前進あるのみ。)
相手の本職は暗殺業、おまけに名高い掃除屋の二人組みだ。
先のように簡単に出来はしないだろう。
そう考えた俺は、まず柱の陰に隠れてみた。
「…ったく、この柱、わざとか」
「すぐ気付けよ」
「ま、俺には無意味だけどな」
「…え、何コレ俺が特攻する方向?」
「働けマダオ」
「普段働いてんじゃねーか」
「テメェのせいで俺の収入減ってんだよ」
「…それ八つ当た」
「あぁ?」
「……あれコイツこんなに怖かったっけ」
どうやら、どちらが俺を誘き出すかで言い合っているらしい。
隙さえあれば…と思ったがどれだけ見ていても隙と言うものが無い。
これから先、どんなやつらが待っているかは知らないが、この双子が一番面倒だと今は思う。
どうしたものか…と頭の中で考えていれば、いきなり目の前にショットガン。
いつの間に、と思いつつ、早くも終わりかとも思っていると弟の方から声。
「…これでもダメか」
「何を躊躇ってる」
「今まで楽しくやってきたんだ、躊躇うに決まってるだろ」
「暗殺者ともあろう者が、甘いな」
「何言っても無駄だぜ、六。今、お前の命は俺が握ってるんだからな」
「さて、それはどうだかな」
「何言っ」
こんな好機、またと無い。
油断しすぎているKKが持っている銃を即座に切り刻む。
「げっ!?」
まさか鉄の塊が斬れると思っていなかったのだろう。
突然の形勢逆転に驚きながらも、KKは一瞬で間合いを取った。
だが、遠距離でさえ無ければどうと言う事はない。
「来い、一瞬で終わらせてやる」
「…はは、お前がそんなセリフ言っちゃ洒落になんねーって」
「来ないなら此方から行くまでだ」
ジリジリと後退していくKKに対し、俺は飛び掛って刀を振り上げる。
KKは避けられないと判断したのか、目を固く閉じて俺に斬られるのを待っている。
一瞬だけ、勢いが緩んだ。
ガキッ、と何かが刀を止めた。
「あぶねーあぶねー…」
「…AK」
「俺なんかより、首を掻っ切りゃよかったのに」
「流石に弟見捨ててまで、命取る気はしねぇよ」
「今初めて兄らしい事言ったな」
「なぁ、俺は一応兄だからな?」
少し和やかな会話をしているが、先ほどから俺の刀を止めている手は微塵も動かない。
コイツは、これほどまでに強かったのだろうか。
内心驚いていると、会話を終えたのか此方を睨んできた。
「さて、と…そろそろ本気出さないと殺られそうだな」
「これが本気でない、と」
「あぁいや、この刀を止める分には本気だ」
「…そうか、ならば俺も本気を出すか」
「…これで全力じゃねぇのかよ」
「これでも全力の10%なんだがな」
「マジかよ…」
こりゃ、勝ち目ねぇな、と呟くと同時にナイフやフォーク、さらには箸まで飛んできた。
それらを軽く避けて、また柱の陰に隠れる。
距離をとってしまえば、たかが食器、叩き落とすなり、避けるなりすればすぐに懐へ飛び込める。
銃さえ無ければ簡単な話だ。
「おいどうするんだよAK」
「大人しく殺されとくか?」
「嫌に決まってんだろ」
「だよなー…でも解決法ってのがねぇんだよな」
また何か話をしている。
敵が目の前にいるというのに。
俺ならば不意打ちなどという卑怯な真似はしないと思っているのだろうか。
そう考えての事ならば
大きな間違いだ。
気配を完全に消して、音も無く、二人の近くへと忍び寄る。
「…道は」
「死、あるのみだ」
「「?!」」
お前達を倒さなければ先へ、進めんのでな。
驚きで身動き出来なかった一瞬のうちに二人を斬り捨てる。
真っ赤な血が宙を舞い、壁や近くの柱に飛び散り、模様を描く。
ゴトン、と人の頭が床に落ちる音がした。
「戦いに遠慮も躊躇いも手加減も無用」
また、袖で刀の血を拭き取って鞘に収める。
そしてそのまま、次の階へと進もうとした。
パスッ
何かが、着物を貫通した。
音のした所を見ると、ギリギリ足首から外れた所に穴が開いている。
まだ生きていたのか。
ガシャッ、と銃が床に落ちた音が響く。
「お前、何に…なるつもりだ…」
「俺は俺だ、何者でもない」
「このま、まじゃ…人…で…」
そこで声は途切れた。
俺は一度も振り返らずに前へと歩き出した。
真っ直ぐな信念
(邪魔だ邪魔だ邪魔だ)
(そんなもの邪魔以外の何物でもない)
(ひたすらに真っ直ぐ信念など)
(そんなもの闇の中に投げ捨てろ)
――――――――――*
躊躇いを消したら
次は簡単な命のやり取りで
真っ向勝負を捨てろ
まっすぐなこころは邪魔なだけ
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