人神 | ナノ


第一戦

 


何故こんな事になったのかは分からない。

だが、こうなった原因は分かっている。

己の心の中は怒りでいっぱいだった。



「しかし、初戦がお前達とは」

「先輩、何で俺達こんな事になってるんですかね」

「知るか」

「俺様はともかくお前らじゃ勝ち目ないんじゃね?」

「いや、意外にやれるかもしれんぞ?」



仲間に刃を向けることは出来んからな。

そう一言付け加えて、軽く笑みを浮かべる。

だがすぐにその言葉を否定された。



「どうだかな、六も俺と同じタイプだろ」

「…兄キと同じタイプ…だと…?!」

「あぁ、確かに」

「アンタは誰であろうと己に牙を剥く奴には容赦しない、そうだろ?」

「…ほう」

「俺様には分かるぜ、なんてったって、俺様もそうだからな」



随分な物言いだ。

そこまで言われては相手をしない訳には行かない。

俺にもプライド、と言うものがある。

小さくため息をついて、腰の刀に手をかけながらマジメに向かって口を開く。



「よく言う、確かに似ているかもしれんが、お前には戸惑いがある」

「戸惑い、ねぇ?俺様はんなもん捨てたつもりだけどな」

「目は口ほどに物を言う、どういう意味かは分かるだろう」

「なーるほど…今更ながらに、今のアンタが恐ろしいぜ」



その様子を見て、ハジメは焦りだした。

未だに決心がつかないのだろう。

もう、戦う事以外に選択肢は無いと言うのに。



「…兄キも先輩も本気なんスか?!」

「いや、俺、六を相手にする気ねぇんだけど」

「あれだ、三人でフルボッコすりゃ勝てんだろ」

「それを無謀っつーんだよ」
「それ、無謀っスよ兄キ」

「うるせー、いいからやれ」

「やろうにも武器が無いんだが?」

「素手でいいだろ素手で」

「六さん刀持ってるんスけど」

「お、あんな所にバットが」

「……どうしてもやれってか…」

「俺まだ死にたくねぇ…!」



ハジメが騒いでいるのを見ていると、三人の後ろで金属の乾いた音がした。

…ここから見ている限りでは金属バットにしか見えない。

いや、そんな事はどうでもいい。

そんな事より、俺には分からない、何故そうしてまで俺達を戦わせたいのか。

武器の無い大人3人程度なら、峰打ちで早々に終わらせられる。

それにあんな棒を持たせた所で、結果は目に見えているだろうに。



「本気か?」

「俺様はいつでもマジだぜ」

「かなり不本意だがな、覚悟は決めた」

「いつでもいけますよ六さん!…いつでも…」

「やれやれ、良い度胸をしている」



あぁ、何て面倒な奴らだ、と苦笑いをしながら一歩、足を踏み出す。

静かに、小さな声で「すまんな」と呟きながら。

謝罪と共に、感情は捨てた。



「行くぞ」



返事も待たずに、三人との間合いを一気に詰める。

真っ先に反応したのはマジメだった。



「うぉ?!」



マジメは反応すると同時に弟と修を突き飛ばした。

二人を突き飛ばす為に使った、一瞬の隙を見逃す筈も無く。

動けない体に容赦なく一太刀浴びせた。

マジメのシャツが真っ赤になり、空中には鮮血がほとばしる。



「兄キっ?!」

「マジかよ…!?」

「ッハ…アンタ、ホント、に、恐ろしい…な…」



そう呟き、痛みを感じていないかのような笑みを浮かべながら、床に倒れた。

切り口から血が溢れ、あっという間に血溜まりが出来る。



「死ぬな、兄キっ!」

「あ、おいハジメ待っ」

「いつ何時も隙を見せるべからず」



マジメの元へと走り出そうとするハジメに向かって呟く。

そして、隙だらけのその体を一刀両断した。



「がっ…?!」



また、血溜まりが一つ増えた。



「残るはお前だけだな」

「俺様、戦闘する気ねぇんだが」

「覚悟はしたんだろう?」

「はぁ…やんなきゃなんねぇのかよ…」



大きくため息をついて、項垂れるのかと思いきや、いきなりバットを振りかざして襲ってきた。

だが、その動きを己の目ではただのスローモーションにしか見えず。

軽くかわして、背中から心の臓を一突きした。



「…六」

「何だ」

「気を、つけろ…よ」

「…あぁ」



それだけ言うと、修はその場で倒れて、動く事は無かった。

己の刀にべっとりと付着した血を見ながら、己は何をしているのだろう、と思った。

考えるのもそこそこに、その血を袖で拭き取って、鞘に収める。

次へいくか、と一歩足を踏み出して、後ろを振り返る。

三人にもう一度「本当に、すまない」と呟いて、次の階へと駆け出した。






躊躇いや迷い
(迷うな躊躇うな)
(その一瞬の油断が世界を殺す)
(世界を守るものに)
(そんな感情必要ない)
(さぁ、そんなもの忘れてしまえ)








――――――――――*
六の感情を
完璧に奪う為の
世界と神々による
もっとも残酷な

守護神創作計画



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