人神 | ナノ


第一閃

 


何故こんな事に。
頭の中で幾度繰り返そうとも分かる筈のない問いかけが反響する。いっそ夢であったのならどれ程嬉しかっただろうか。自然と刀の鞘を持つ手に力が入る。少しばかり力を入れすぎたようで、みしりと悲鳴をあげた鞘の為にも小さく息を吐いて手の力を緩めた。


「しかし初戦がお前達とは」


大きなため息と共に目先の仲間を睨む。売られた喧嘩は買うのが礼儀だ。だが、意図的にわざと売られた喧嘩など買う価値があるのか怪しい。喧嘩をする際に実力差など大した問題ではないが、流石に仲間へと向けるには少々己の刀は乱暴すぎる。
さてどうしたものか、と考えていれば向こうは向こうで混乱しているようだった。


「……先輩、何でこんな事になってんスかね」

「知るか、こっちが聞きてぇわ」

「へぇ、六か…そうか六が相手か…!」

「何か兄キが興奮してんスけど」

「ほっとけ」

「はは、俺様はまだしもお前らは瞬殺だよなぁ」


約一名、この状況をそれなりに喜んでいるようだがそれは放っておこう。それよりも他の二人だ。普通の、ただ喧嘩が少し出来る程度の二人に一体何をさせようというのか。ともあれこの三人相手では本気など出せるわけもない。少し茶化すようにして三人の言葉に割り込んだ。


「意外とやれるかも、しれんぞ?」


そう、意外と。自身でも驚く程に油断している今なら、この三人相手に負けるかもしれない。ほんの少しの期待と希望と、多大な諦めを胸に笑って見せた。だが、この笑みを知ってか知らずか否定らしき言葉が飛んでくる。


「どうだかなぁ?」


嘘だろ、と言わんばかりのニヤリ顔を向けるのはマジメだ。少しばかりしんみりした己が馬鹿馬鹿しく思える。特に言葉を返すでもなく、次の言葉を待っていれば妙に煽るような言葉が次々に空中を舞った。


「お前は相手が誰だろうと、自分に牙を剥く命知らずには容赦しない奴だ」

「………」

「それがこんな状況で負けるかもだって?嘘も程々にしろよ」

「………」

「それとも、ほんの数年同じとこで仲間ごっこやったから情でもあるってか?笑わせるぜ」

「……、……」

「俺様にはねえな、そんなもん。分かるよなぁ六、お前も俺様も同類なんだから」




prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -