最終戦
「…ここは、どこだ?」
ぽつんと己一人が立っていた。
真っ暗なのに自分の姿だけは、はっきり見える。
キョロキョロと周りを見回しているといきなり目の前が光り始める。
徐々に強くなる光に思わず目を閉じると一瞬だけ浮遊感を覚えた。
一体何なんだ。
一瞬の浮遊感から数秒、何も起こらないのかと思って目を開ければ、真っ暗で何も見えなかった筈の空間に己の刀で傷つけてきた者達が、ガラスの中にいた。
手前から順に、ハジメ、マジメ、修、AK、KK、マサムネ、ダイ、ナカジ、土墜、黙憐、玉露、黙、そしてMZD。
まるで学校なんかの理科室で見かけるホルマリン漬けのように、液体の中でゆらゆら浮いている。
異様な光景に思わず目を見張る。
「これは…」
「驚いたか?」
突然背後から聞こえた声に勢いよく振り返る。
楽しそうな笑みを浮かべ、俺を見ている世界がそこにいた。
そんな顔の世界に、怒りを堪えるも、胸倉を掴んだ問う。
「何をしている…!?」
「何を…って、そりゃ蘇生に決まってんだろ」
「…は?」
「まぁ、俺の息子共は傷の治りが遅いから、あんなかにいれてんだけどな」
蘇生?
こいつは今、生き返らせていると、言ったのか?
出来るのかそんな事。
まさか、と思いながらも世界を睨みつける。
しかし世界は臆する様子もなくケラケラ笑っていた。
「あっははは!お前ムキになりすぎなんだよ」
「…うるさい」
「お前一人の為だけに8人もの人間殺してたまるか」
「…なら、何故巻き込んだ!」
俺だけの為に殺すのが惜しいというなら、元から巻き込まねばよかったのだ。
なのに何故。
何かを企んでいるような笑みを浮かべる世界を一回殴ろうかと思ったが、殴る手が勿体なく思えてやめておいた。
ほんの少し相手にしただけで疲れた気がしたから、胸倉から手を離すと、世界が笑いながら喋り始めた。
「はは、まぁ、お前の言う通りだけどな。巻き込まなきゃ、神は創れねぇ」
だから少しでも詫びにと、生き返らせてやってんだ。
無意識の内に手を握り締めていた様で、ひりひりと痛む。
何故だろう、ここまでこの世界に腹が立つのは。
言い方もそうだが何よりこいつは何一つ悪いと思っていない。
どうやらこの飄々とした態度が、好かないらしい。
まるでこの世界の全てが自分の玩具だと思っているような、そんな態度が。
「それで」
「あ?」
「俺はどうなる」
「あ、それな」
今の今まで忘れていたのか、世界は思い出したように一回手を叩くと己の右手と右足に違和感。
一体何だ、と見てみれば手首にブレスレットと足首にアンクレット。
世界が着けさせた物だから取れないとは思うが、試しに外そうとしてみる。
が、外そうとするとブレスレットは指の入る隙間も無いくらいにぴったりと手首に張り付いた。
これは何の意味があるのだろう。
「何だこれは」
「何って、お前はもう俺のもんだから」
「は?」
「俺の直属ってのは今んとこ数人居るんだけど、まぁ、その証みたいな?」
「…つまりどう言う事だ?」
「簡単に言えば、お前は俺の部下って感じ」
…世界の、部下?
不本意ながら言い方が不愉快だ。
そもそも俺は一体何の為の神にされているというのか。
「…それはともかく、俺は一体何の神に成ろうとしているんだ」
「そりゃ勿論、守護神ってやつさ」
「守護神?」
「ま、人によっちゃ鬼神だけどな」
「どっちだ」
適当な事を言いながら、世界は、俺に手を差し出した。
直感だが、この手を掴めば俺は。
「ほら、手ぇ出せよ」
「何故」
「俺の世界を守ってくれ、ってな」
「…その事に意味は」
「あるね」
世界の汚れはお前が取り払え。
俺は、世界の手を取った。
―――――――――――
「おい、六?聞こえてっか?」
「聞こえている」
「次は南へ5kmの所にある街に行け」
「…分かった」
今日も命令と共に世界を翔る。
この世界に要らぬものを、斬り捨てに。
これが世界の為になる。
全ては、世界の御心のままに。
結果
世界は新しい駒を手に入れました
その駒はとても強く、世界に忠実でした
人としての存在を忘れられた彼は
いつまでも、世界の駒でありました
――――――――――*
世界さんの駒になった六という人は
唯一の肉親にも、友人にも、神さえも
全てのものに忘れられて
世界と共に一人で歩んでいくのでした
終止符。
六さんのお話はこれで終わり。
世界さんやっと話に出せる。
六さんの話はちょいちょい書き直す。
絶対。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
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