人神 | ナノ


第八戦

 


何も考えず、ただ目の前に続く階段を上っていく。

カラン、カランと下駄の音だけが響く。

ただ、何かに押されるかのように前へと進んだ。




少しして開いたままの黒い扉が目に入る。

その先には真っ黒な部屋。

部屋の中心には、神。



「…やっと来たか」

「…………」

「そういえば、下の階で全部消えたんだっけか」

「……」

「…喋れねぇのは不便だろ?」



返してやるよ、今だけな。




返す。


何を?

いや、待て。

俺は今、何を問うた?

それより何故俺はここにいる?

いや、自分がここまで来た事は覚えている。

しかしそこには何の想いもない。

何を思って俺はここまで来た?



まるで大雨でも降るかのように疑問が脳内を駆け巡る。



「落ち着けよ、六」

「…黒?」



黒が居るのは分かってて部屋に入った。

それなのに今、やっと認識したような気がする。

何故、こんな変な気分になるのだろう。



「じゃあ、まず一番最初の相手は誰だった?」

「何だ、いきなり」

「確認だ」

「確認?」

「お前が、一階からこの八階までの事を覚えてるかどうか、のな」



一階から、八階。

もう、そんな所まで来ていたのか。

そんな事を考えながらも、しっかりと、最初の出来事から今までの事を思い出していた。



まず、ハジメとマジメ、それに修。

普通に喧嘩が強い程度だからな、あいつら。

次に、KKとAK。

まさかAKが戦えるとは思わなかった。

で、そこから確か、ダイとマサムネ、だったか。

マサムネはあれだけの武器をどうやって隠し持っているのやら。

それに鬼だと言っていたナカジ。

マフラーには驚いたな。

その後からは神が相手だったか。

あの土墜が相手になるとは。

…マサムネの刀をアイツのところで使えなくしてしまった。

白憐には本気でキレたな。

アレは酷い。

玉露には悪いことをした気がする。

どうにも毒は好きになれそうに無いが。



今までのことを思い出して、俺は何をしているのだろう、と本気で思った。

何の為に、本当に何の為にここまで来ているのか。

今の俺には全く分からない。



「覚えてるみたいだな」

「あぁ」

「じゃあ、もう一つだ」

「何だ?」

「今回の件、六は誰の所為だと思う?」



誰の所為か?

俺としてはもうアイツの遊びには思えない。

だが、それ以外に思い当たらない。

無意識に、刀を握り締めた。

刀の柄に薄く血が滲むほどに。



「俺は、最初MZDの仕業だと思っていた」

「…やっぱりか」

「知っていたのか?」

「ま、お前の事だからな。だが、最初って事は今は違うのか」

「あぁ」

「今はどう思ってるんだ」

「…もうMZDの仕業には思えない」

「何故だ?」

「少なくともアイツは、音楽を共有する仲間を殺し合わせたりしない」

「…へぇ、それは意外だったな」



驚かれた。

…何を驚いているのか分からない。



「何を驚く必要がある」

「いや、六は神様に対して扱い酷いからそう言うとは…」

「あぁ」



なるほど。

別にバ神に対して扱いが酷い訳じゃない。

これが通常だ。



「お前が通常でも傍から見てたらイジメもいいとこだぞ」

「心を読むな」

「癖だ」

「土墜が同じことを言ってたな」

「ウィンクつきで?」

「あぁ」

「むしろアイツは癖だーって言うとウィンクする癖がある」

「確かに」



なんて土墜の話をしていると、いきなり黒が手に刀を持った。

俺が知る限り、黒に影は居ない筈だ。

一体どこから?



「またいきなりだな、それは何だ?」

「コイツは、俺の心」

「心」

「そうだ、俺には影が居ないから代わりに心の闇を使う」

「闇なんて、使えるモンなのか」

「まぁ、普通はそう考えるよな…」



試してみるか?


黒の手の中にあった刀が、黒く丸いものに変形する。

お手玉で遊ぶかのように黒いものを、くるくると回していると、それは回るたびに一つ、二つ、と増えていった。

増えすぎて黒の手で受け止めきれなかった黒いものが、ボロボロと床に落ちていく。

少し、悪寒がした。



「落ちてるぞ」

「わざとだ」

「心の闇なんて、限りあるものじゃないのか?」

「限りか…神様の闇の深さは、決してこんな事で消えてしまう程度のものじゃない」

「MZDの闇の深さ?」



アイツの、闇?

黒の心の中にはMZDの闇があるという。

一体どう言う事だ。

今日、初めて知った事が多すぎる。

この世界は、何を隠している?



「…さて、相手してやるよ」

「やはりお前も倒さなければ先には進めないのか」

「一応俺の仕事は終わったんだが、やれってうるさいからな」

「誰がだ?」

「…土墜の所で、もう聞いた事、あるだろ?」



土墜の、所で?

まさかあの世界の声が?



「そう、世界がやれと言う」

「世界とは、MZDの事じゃないのか?」

「…間違っちゃいねぇ、だが違う」

「意味が分からん」

「ま、本人に会えば分かるだろ」



と言う事はこの先にMZDが居るのか。

アイツも、倒さなければならないのだろうか。

そんな先の事を考えていた俺は、ふと下を向いた。

足元には分かりにくいが、黒いもの。



「!?」

「遅い」



それは一瞬にして、爆発した。

どうやら一個だけでなく、二、三個転がっていたらしく、爆風のせいで勢いよく壁に体を叩きつけられた。

まさか爆発するとは、思いもよらなかった。

相変わらず痛みは無いが、よろける体を刀で支えつつ立ち上がる。



「痛みは?」

「無い」

「体は出来てんのか…じゃ、後はアイツと神様の出番だな」

「…今ので終わりなのか?」

「あぁ、やれって言われたから一発やったろ」

「それでいいのか…」

「いいんだよ、まともに相手したくないから」



それはどういう意味だ。

少し睨んでみたが黒は何も言わなかった。



「扉は開いてるぜ」

「そうか、少し残念だ」

「…何が?」

「お前と戦えない事がだ」



そう言った俺を黒は少し悲しそうな目で見た。

何を思っているのかは分からない。

だが、言わんとしている事は何となく予想がついた。



「六、お前「何でそんなに戦いたがるんだ?」…お前、俺の心読んだか?」

「いや、全く。予想がついただけだ」

「…それでも、一字一句合うとは思わねぇだろ」



確かにそうだ。

だが今のは仕方ない。

ずっと手に持ったままだった刀を鞘に収めた。



「何故だかは分からん。ただそう思うだけだ」

「結構教育されてんな…」

「…何か言ったか?」

「いや、何も」

「まぁこれ以上ここに居ても戦ってはくれなさそうだ」

「絶対やだね」



べー、とあかんべーをする黒を見て、少し笑った。

戦えないのなら次に行くか。

このままここに居ても時間の無駄だ。

俺はゆっくりと、扉に向かって歩みを進めた。

すれ違った瞬間に、黒は一言呟いた。



「次の相手は神様以上に一筋縄じゃいかねぇぞ」



それはどういう意味なのだろうか。

いや、そのままの意味なのだろうが、相手が想像出来ない。

俺が一筋縄ではいかない相手、思いつくのはあのバ神しかいない。

だが、そのMZD以上に手こずる相手だと黒は言った。

一体誰が。



少しの不安と楽しみとを心に浮かべつつ、階段を上る。





終わりは、近い。

どこからか声が響いた。






最終確認
(さぁ、これで準備は出来た)
(残るは、後2つ)
(これからが本番だ)








――――――――――*
一度無くしたもの
それは一体どこにあったのか?
物語の終幕は近い
残るは
絶望との対峙



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