しあわせ
短いもの二つ。幸せな気分になりたくて。
寂しがりとツンデレ
「むー…ねぇ、アーク！」
「何ですか一体」
「何でアークはいつも冷たいの？」
「は？」
「アークはいっつも俺に冷たいもん」
「いい年したおじさんが『もん』とか言わないで下さい」
「うん、流石に俺も駄目だと思った」
「というか、そんなに冷たいですか？」
「すっごく冷たい」
「でも私は、そんなに意識してないんですよね」
「今日だってアークが一人で全部殺っちゃうし」
「ノアの行動が遅すぎるだけです」
「確かにアークは一人でも完璧に出来るけど、俺は出来ないんだよ」
「貴方は穴だらけの紙みたいですからね」
「…よくよく考えたら、俺いらないんじゃないのかなぁ」
「また…いきなり何を言い出すんですか」
「だって、アークは完璧なんだから、穴だらけの俺が居ても、邪魔なだけでしょ？」
「あのですね」
「もしかしてアークってば気を遣って…痛っ！」
「殴りますよ」
「もう殴ってる！」
「というか人の話を聞きなさい」
「うぅ…だってー」
「だってじゃない、聞け」
「はい」
「別に私は貴方が邪魔だとは思ってませんよ」
「でも、いつも足手まといだし」
「…貴方は気付いてないんですか？」
「何に？」
「貴方が言う程、私は完璧ではないんですから」
「そんな事無い！」
「全力否定しないで下さい」
「だって、本当にアークは完璧なんだから」
「それは貴方が居るからでしょう」
「…そう、なの？」
「私と言う紙に開いた穴を、貴方がカバーして、逆に貴方と言う紙に開いた穴を私が補っているから、完璧に見えるだけですよ」
「俺って、そんなことしてたの？」
「してましたね」
「アークの相方って堂々名乗っても恥ずかしくないかな？」
「何を恥ずかしがるんですか、人間である限り、穴はあるものでしょう」
「…そうかな」
「分かったら早く帰りましょう。私はお腹が空いたんです」
「分かった！じゃあ早く帰ってご飯作ろう！」
「途端に元気になりましたね」
「アークが俺を認めてくれたからねっ」
「おや、今まで貴方を認めてなかったとでも？」
「違うの？」
「貴方と組んだ時から認めていますが何か」
「…えっ！」
「認めても居ない人と組む訳無いでしょう」
「！…えへへ」
「気持ち悪い笑顔浮かべてないで、帰りますよ」
「あ、待ってよー！」
腹違いの兄弟
「ケンジ君」
「…ユウジ」
「え、っと、その、久しぶり、かな？」
「そうですね、お久しぶりです」
「最近、大学やめた、って聞いたから、心配で」
「何度言えば分かるんですか、あなたに心配される筋合いはありません、と」
「で、でも、気になって」
「哀れみのつもりですか？それともただの優越感に浸りたいからですか？どちらにしろ、お断りですが」
「どっちでもないよっ」
「じゃあ何なんですか」
「本当に、ただ心配で」
「何を、心配してるんです？」
「…え」
「あなたが、僕の何を心配するんですか！あの男の下でぬくぬくと育ったあなたが！何を！」
「ケ、ケンジ君、僕はただ」
「僕は今更何をされても、それは全てただの偽善にしか見えません。もう、構わないでくれますか」
「ま、待ってよ！」
「…まだ何か？」
「今日は、これ、を…渡しにきたんだ」
「何ですかこれ」
「ケンジ君の、通帳とか、印鑑とか」
「…何故、それを、あなたが…！」
「君の、お母さんが、僕のお母さんに、渡してくれた」
「嘘だ！母さんは絶対にあなた達に会わなかった筈だ！」
「ううん、一回だけ、お父さんに内緒で、家に来てくれた」
「一体、何の為に…」
「もし、お父さんが来た時、自信が無いからって」
「あの男が、来た時？」
「この通帳ね、名義はケンジ君だけど、中身は、全財産だって」
「全、財産？」
「時々、お父さんが、お金をせびりに行ってたみたい」
「…！」
「このお金は、ケンジ君の為に使うものだから、預かっててほしいって。君がちゃんと一人で生きれるようになったら渡してあげて、って」
「それを、僕の母さんが？」
「…うん。もうそろそろ、いいかな、って思ったんだ」
「どこを、どうみて、そう思ったんですか」
「最近、ケンジ君を街で、よく見かけるから」
「それだけ、で？」
「内気だから、一人で堂々と、外を歩けるようになったら、渡してね、って」
「それが、一人で生きれるようになったら、ですか」
「うん」
「未だに、あなたからお金を送られているというのに、それを、受け取れと？」
「…これを、君が受け取ったなら、僕はもう、送らないよ」
「本当ですか」
「うん。それに、送ったお金、全部、返ってきちゃうし」
「なら、それを受け取るのに、断る必要も、ありません」
「…はい、ちゃんと、渡したよ」
「えぇ、ちゃんと受け取りましたよ」
「じゃあ、僕は、これで。もう、会う事もない、かな」
「…少しくらいなら」
「え？」
「少しくらいは、話を聞いてもいいですよ」
「それ、本当に？」
「まだ、認めたわけじゃ、ありませんけど」
「…じゃあ、週末に、また来て、いいかな？」
「お好きに、どうぞ」
「ふふ、ケンジ君、ありがとう」
「礼を言われることをした覚えはないので、結構です」
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