裏道 | ナノ


呆れた





際限なく溢れてる己の欲に、腹の底から大きなため息が出た。

何をしても何を見ても満たされない。

ただ、俺には唯一の弟がいる。

それだけが心の虚しさを満たしていた。





「…蒔?」



ふと後ろを振り返るも誰も居ない。

ついさっきまで後ろに弟の蒔が居た筈なのだが。

興味を引いたものについて行ったか、暇になったか。

その二択しかないのは兄弟というのもあり、既に分かっていた。

しかしここは一本道。

曲がり角などない筈だ。

一体どこへ行ったのか。



「蒔」



ふらふら、ふらふら。

弟を探してきた道を戻っていく。

心なしか胸騒ぎがした。

戻ってはいけない気がする。

それでも、弟が居るなら行かねばならない。



「蒔」



ふと、路地の先に二つの気配を感じた。

一つは蒔で、もう一つは分からない。

何をしているのだろうか、と足を速めた。

あぁ、胸騒ぎの原因はこれか。



「…蒔っ!」



血溜まりの中に倒れている弟。

その横で弟の刀を持って突っ立っている誰か。

思わず名前を呼んだ瞬間、そいつは蒔に刀を突き刺そうとした。



「させん…っ!」



間一髪で刀を弾き飛ばす。

薄暗い事もあってか、よく見えない顔に言い知れぬ嫌悪感を覚えていると、ゆっくりと顔が此方を向く。



「貴、様…は…!?」



世界。



「よくも、蒔を、よくもっ!」



あぁ、憎々しい。

世界は嫌いだ、大嫌いだ、憎んでも憎みきれない。

我と弟を勝手に創っておきながら勝手に捨て置いた張本人。

何故世界が、弟を刺した?

とにかく弟から離れさせる為にも、刀を抜いて振りかざす。

一瞬で避けると、世界は口を開いた。



「まぁまぁ、一段と弟想いなこって」

「黙れ!貴様の顔など見たくもない!」



憎たらしい笑みを浮かべながら軽快なステップで、刀を避けていく。

十分距離がとれた所で、深呼吸して自身を落ち着けた。



「今度こそ、貴様を消してくれる…!」

「あ?無理に決まってんだろ」



親に逆らえると思ってんのか?



虫唾が走る。

我等の親を騙るなど、腸が煮えくり返る思いだ。

我等に親など居ない。

もう我等は我等で、ただそれだけの存在だ。



「そうだ、だからこそ、蒔を死なせない」



今ここで奴を相手にしていたら時間の無駄だ。

早く弟の怪我をどうにかしなくては。

刀を収めて、蒔を担ぎ、その場から脱兎の如く逃げた。



「…屈辱だ」



だが、弟の為なら、これくらい平気だ。

我の存在価値を弟が、弟の存在価値を我が、分かっているのだから。

弟無くして我成らず、我無くして、弟成らず。



「随分と、依存しているものだ」



まぁ、そんな状態にとても満たされているのだが。












即興烙蒔話。世界さんマジ悪役。弟想いの兄と兄想いの弟。この二人は依存で出来上がっていればいいのに。と適当に今考えた(←)兄弟っていいなぁ。やっぱ羨ましいんだろうな。

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