12/5
寒空の下、乾いたコンクリートの上に滴り落ちる液体。
それは次第に大きな水溜りのようにコンクリートを覆っていった。
一人佇む俺は、煙草をふかしながら空を見上げる。
「さみぃ」
銃を懐に戻して、動かない誰かさんを手早く片付けて帰路につく。
途中コンビニに寄って、晩御飯の材料を買った。
今日の晩飯は野菜をたっぷり入れた袋ラーメンにしよう。
「ただいま」
「おっかえりー飯くれー!」
「もうちょっと待てよ」
「待てねーって、ほら早く早く」
帰って早々、今まで寝ていた奴が俺に飯を作れと急かす。
今から仕事なのは知っているが、その仕事の時間まで3時間もある。
とりあえずさっくり作るとしよう。
まず卵を割って、少し穴をあけたあと、ちょっとの水と一緒にラップをしてレンジで半熟にする。
俺もAKも卵は半熟が美味いと思ってる派。
レンジに卵を放置して、もやしやらキャベツやら人参やら玉ねぎやらにらやらをフライパンの上で炒めて塩コショウで味付け。
色々味付けしてラーメンと一緒に時間を見て煮込む。
ラーメン皿に盛り付けたあと、卵をのせて完成。
「出来たぞ」
「うおー!飯ー!」
子供かお前は。
椅子に座って手を合わせて。
「「いただきます」」
10分も経てばラーメンは食べ終え、まったりとする空気に。
さて、洗い物…と立とうとしたら目の前にコンビニの袋。
「…何これ」
「ケーキ!」
「は?」
何故にケーキ?
疑問符が頭の中を飛び交う。
「何のための?」
これで自分の為とか言ったら一発殴ろう。
そう考えて構えたのに、予想外の答えが返ってきた。
「誕生日ケーキだよ何言ってんだよー」
「は?」
また間抜けた声が出た。
何で今更誕生日なんて祝う必要があるのやら。
明日をも知れぬ命を祝うなんてそんな意味の無いことを。
「いつ死ぬか分かんねーじゃん?だから祝うくらいはさー」
今まで生きていた中で何度も何度もAKには呆れることがあったが、今は今までで一番呆れた。
そんな事、今まで見向きもしなかったくせに。
「ほーら食べるぞー俺モンブランとガトーショコラとショートケーキな」
「…フルーツタルトしか残ってねぇんだけど」
「えー?…あ、ここにあった」
俺の前には小さなフルーツタルトとチーズケーキとシュークリーム。
AKの前には小さなモンブランとガトーショコラとショートケーキ。
男二人が小さいケーキ三つをつついてる、なんて随分可笑しな図だな。
さっさと食べ始めたAKを見て、フォークを手に取りチーズケーキの一角をフォークですくいあげ、静かに口へと運ぶ。
甘い。
「甘ったるい」
「コーヒーくれー」
「はいはい」
立ち上がって、キッチンにあるインスタントコーヒーをコップに入れてお湯を注ぐ。
それを二つ分作り、テーブルに置いてから自分も座る。
「おーサンキュー」
「おい、口の端にクリームついてんぞ」
子供かよ。
とりあえず自分のケーキをAKに食われぬ内に、と味わいながらも早めに食べる。
中々美味い、と夢中になっている俺の頭上から声が飛んできた。
「ハッピーバースデー俺ら!」
「…寂しい言い方すんなよオイ」
「じゃあハッピーバースデーKK!」
「………おう」
「…俺にはー?」
「あーはいはい、ハッピーバースデーAK」
「おー!」
ケーキがいつも以上に甘く感じ、コーヒーがいつも以上に苦く感じるのはこんな日だからかもしれない。
12/5
(なー、それくれよ)
(やだよ)
(何で!)
(俺のだから)
(KKのケチ!!)
(はいはい)
おめでとう、双子。
2012/12/05
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