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消失点

 


ふと、考えた。

ここはどこで、俺は誰なのだろう。

真っ白い部屋の真ん中で、真っ白いベッドの上に寝ている俺。

俺?もしかしたら僕なのかもしれないし、私だったのかもしれない。

分からない。

今、自分がどんな状況で、どんな状態なのか。

何も分からない。







「KKが怪我?」

「…あいつがか?」



弟が怪我をした、と言えば信じられないと言う様な目を俺に向けてくる。

それもそうだ、普段のあいつは遠距離からで到底怪我をしそうな仕事にはならない。

だが今回の仕事に限ってはそうも行かなかったらしい。



「そーなんだよ、仕事はやったーって言うんだけど、帰ってきて即ぶっ倒れた」

「おいおい…何そのワーカーホリック」

「で、怪我の具合はどうだったんだ?」



ワーカーホリック、その通りだと思う。

流石に俺も死にかけたら仕事なんて投げ出す。

まぁ、んな事今まで一度も無かったけどな。

眉間にしわを寄せる二人を見ながら、弟に呆れる。

と、何故か殺気を放っている片方に尋ねられた。



「あー頭を何かで滅多打ちにされたっぽくて、今入院中」

「頭?!脳とかそこらへん大丈夫なのかよ」

「あと少しで死んでいたんじゃないのかそれは…」

「医者が言うには意識が戻るまで分からねぇが、記憶喪失の可能性もあるとさ」

「してるに一票」

「俺も一票」



それはそれで困る。

俺生きてけねーじゃん。



「んで、KKはちゃんと病院にいるんだよな」

「一応な、意識はまだ戻ってなかったし」

「じゃあ見舞いに行くか」

「え、珍し」



ガタリと立ち上がった六に少し驚きつつ、弟の様子見にと自分も立ち上がる。

少し遅れてMZDも立ち上がった。



「んじゃあ、行くかー」

「とっとと行け」

「あっはは六さん冷たい」



笑いながらも瞬きをすればそこは病院だった。

相変わらずお早いことでー。



「で?KKの病室どこ?」

「あー…あれ?ここどこ?」

「入り口」

「あぁ、だったら3階の一番奥」

「よし行くぞ」

「ちょ、六早っ」



六はさっさと階段を使って3階へと向かっていった。

そんなに急がなくてもいいか、と思った俺はのんびりエレベーターを待つ。

隣には神様。



「なぁAK」

「んー」

「もしKKの記憶が消えてたらどうする?」

「…えー、俺生きてけない」

「…いやそうじゃなくて」

「KKをどうすっかって?さぁねぇ」

「いいのかんなんで」

「臨機応変にいければいいんじゃねーの」

「お前の場合は適当すぎるだけ」

「あっはは、どんまい」



そんな会話をしているとエレベーターの扉が開いた。

神様はさっさと乗り込む。

俺も一緒に乗り込んだ。



「…少しは、考えとけよ」

「気が向いたらな」



3階について扉が開いた、と思ったらそこには六が立っていた。

何かすっごく怖い顔してらっしゃるんですけど。

六は無言のままいきなり腕を引っ掴んで走り出した。

こけそうになるのを何とか体勢を整えて一緒に走る。

KKの病室の前で止まったかと思えば、いきなり扉を開けて中へ放り込まれた。



「いてて…何だよいきなり」

「KK、こいつが誰か、分かるか」

「…ん?」



六はKKに話しかけたんだよな。

何で疑問系にする必要があんの?

ふ、とKKの方を見れば見た事もないような困った顔してた。

誰これ。

とか本気で思った俺は悪くない。



「いや…」

「…ダメか」

「六さーんこれどう言う事ー?」

「見たとおりだ」

「…ガチで記憶喪失な訳?」

「俺も言ってみたがな、覚えてないようだ」

「んで…俺も覚えてないと」

「あぁ」



困惑したままのKKをそっちのけで会話する俺達の頭を誰かが軽く叩いた。

誰だ一体、と思ったけど叩けるのはここに来るのが一番遅かった神様だけで。

神様はすっげー悲しそうな顔してた。

ねぇ、これどう言う事?俺ついてけないんだけど。



「KKをほっといてお前らだけで話してんじゃねぇよ」

「…すまん」

「ねぇ神様、俺どうしたらいい?」

「さてね、お前が考えろ」



とりあえずKKがホントに記憶喪失なのか確かめよう。

扉の前に突っ立っていた俺はKKのいるベッドの横に椅子を持っていって座る。

その様子を見ていたKKは酷く怯えてた。



「…似合わねーなぁ」

「そんな事言うんじゃない」

「あてっ」



あれ?もしかして今の言葉にしてた?

無意識で呟いたのに六さんに叩かれた。

まぁ、一応確認しようか。



「あーじゃあまず、俺とそこの着物の人とそこのお子様の事、分かる?」

「…いや、全然」

「ここどこだか分かる?」

「…どこ?」

「自分が何の仕事してたとかは?あ、ここ病院ね」

「それも分からな…病院?」

「神様ーもしかして全部消えてる?」

「あー会話からしてそういう感じかもな」

「神様?」



クエスチョンマークを頭の上にたくさん浮かべて首を傾げるKKに神様が説明し始めた。

最初からしてくれたらよかったのに。



「あー俺の名前はMZDっつってな、この世界の神様やってる」

「…はぁ」

「改まんな、違和感すげぇから」

「…おう」

「で、お前は今記憶喪失になってる訳だ。簡単に言えば」

「記憶喪失」

「そ。で、俺が今からお前がどこまで覚えてるか見るから、ちょいと大人しくしてろ」



神様はKKの頭に手を置いた。

すると、手と頭の間?その辺りがうっすらと光り始める。

これで何も覚えてなかったらホントにどうすっか。

うーん。

なんて悩んでる間に神様はKKを寝てろ、とベッドに押し付けていた。

流石神様、催眠なんてお手の物ですか。




「おし、寝たな」

「で、どうだったんだ」

「アウト」

「うわーマジかよー」

「一番考えたくなかった状況が出来上がったな」

「で?AK、お前どーすんの」

「…あー多分暫くは入院だからいいけど、退院した後だよなぁ」

「問題でもあるのか?」



大有りですよ。

俺は飯作れないしっていうか家事出来ないし。

当然KKも出来ないし、仕事も出来ない。

しかもこの事が噂にでもなったら、KKを疎ましく思ってる奴らがこぞって暗殺なり何なりしにくるんじゃなかろうか。

それに関しても俺じゃあ庇いきれる自信なんて無いし。

よし、こうしよう。



「よし、じゃあ神様」

「あん?」

「KKが退院したら記憶戻るまで預かってくれよ」

「AK…」

「…いいのか?それで」

「動けねぇKKじゃあ足手まといもいいとこだし、噂が流れでもしたら尚更めんどくせーから」

「…俺は別にいいけど」

「裏事情など知らんがな、たまには顔を見せろ」

「六さんがツンデレ…いやすみません冗談です」



そんな訳でKKは神様に預ける事した。

神様の所なら黒も居るし、六だって居るだろうから心配ない筈。

そしたら俺だって少しは仕事に専念できるしー。

おっけーおっけー、これでいこう。



とりあえず今日は泊まる事にした。

え?どこにって、KKの病室に。

神様特権万歳。



「…にしても、KKが記憶喪失ねぇ…」



記憶無くなったらあんな顔するんだなー。

もしかしたら自分も記憶無くしたらあんな顔出来たりするんだろうか。

何それ怖い。

でも少しだけ弟が羨ましかったりした。

俺もほんのちょっとでいいから、一般人になってみたい。

とかね。

そろそろ丑三つ時か、って頃に眠くなり始めたのか欠伸が出る。

まぁ、まだ二日三日だし、大丈夫だろうって思った俺はあっさりと寝た。






消失点
(記憶喪失ってさぁ)
(最悪戻らないんだっけ?)
(だったらもういっその事)
(普通に生きてくんないかな)
(なんてね)








――――――――――*
何故か続きそうな感じ…?
ただ単に記憶喪失になったKKさんを
大爆笑させたかっただけなのに
どうしてこうなった
相変わらず話がズレるのに
定評のある(?)神現です
でも真面目なAKさんもレアな気がする

ここまで読んで頂き有難う御座いました。


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