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とある夏の出来事

 


ミーンミン。

蝉がうるさい。

じんわりと額に汗が滲むほど暑い。

真っ赤な血を撒き散らしたまま動かない死体のせいで余計暑苦しく感じる。

そろそろ帰らなければ。



ピーンポーン

「おや、来客が来てしまいましたか」



この返り血、どう説明しようか。

とりあえず誤魔化さないと。



「猪川さんいますかー?」



そういえばここの家の名字は猪川だった気がする。

声からして娘の友人なのだろうか?

下駄を履いてカランと軽い足音を立て、少し勢いをつけて扉を開ける。



「あっ猪川さ…わっ!」

「うわわっ!」



わざと扉をぶつけるようにして外に出る。

と、まだ中学生ぐらいの少女が不思議そうな目で自分を見ていた。

一瞬惚けてすぐに謝る。



「…っあ、すすすみません!急いでいたもので…!」

「あ、いえそんな」

「ぶつけてしまいませんでしたか?」

「大丈夫です!」

「良かったぁ…」



心底安心したように呟くと少女は少しおどけながら尋ねてきた。

「貴方は誰ですか?」と。



「僕は猪川さんの友人で、今日はお昼をご馳走になってたんです」

「猪川さん…のお父さんですか?」

「はい。ですがケチャップを握りつぶしてしまって…」



頭を軽く掻きながら、ハハッと自嘲気味に笑う。

少女は軽く僕の全身を見てからクスクスと笑っていた。



「あっ、すみません笑ってしまって…」

「いえいえ…あ、僕は乾乾と申します」

「私は神崎望絵です」

「望絵さん…可愛らしい名前ですね」



適当な名前を名乗って少し談笑する。

暑い夏の日。

じんわりと汗が額に滲んでくる。

額を手の甲で拭えば、べっとりと汗がついた。



「今日は暑いですね」

「そうですね」

「真夏日だそうですよ」

「なるほど、蝉が騒がしいわけだ」

「暫くは蝉の大合唱が続くみたいですね」

「そういえば、夏の風物詩といえば何だと思います?」

「風物詩ですか?」

「風物詩です」

「うーん…スイカとか?」

「僕は怪談とか」

「怪談ですか」

「聞いた話なんですが」



簡単かつ遠回しに今の状況を話してみることにした。

これで分かってしまえば、残念ながらこの子とはさよならしなければならないけれど。



「こういった暑い日には、どこかで絶対殺人が起きているんですよ」

「殺人…?」

「えぇ、殺人鬼は適当な家に目星をつけて、その家に押し入り、一家を惨殺して、返り血を浴びたまま、家を出る。証拠隠滅なんて絶対しない。だけど殺人鬼は捕まらない」

「…怖いお話ですね」

「まぁ、たかが怪談ですよ」



僕はそろそろ帰ります、と手を振って帰ろうとした。

ら、手を掴まれた。



「あなたが、その殺人鬼ですか?」

「……まさか、そんな訳が」

「そう、ですよね!すみません、お時間取らせてしまって」



パッ、と離された手首にはうっすらとうっ血痕。

まぁいいか、と帰った。





数日後、両親と娘、そしてその友人が殺されているのを近所の人間が発見する。






とある夏の出来事
(気付いてたみたいだから)
(ついでに殺しておきました)
(お前、結構容赦なくなってきたな)
(そうでしょうか?)








――――――――――*
ある夏の日の事。
ケンジさん怖い。
すごく短いんですがネタ切れです。
次は秋だー。

ここまで見て頂き有難う御座いました。


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