金で戦う
目の前にはトマト宜しく真っ赤なスーツを着た眼鏡の男。と、少し体の透けた白いマントの男。我等の間にあるのは一つのアタッシュケース。持ち手は二人の男たちの方へと向いている。
「これで、良いんだろ?」
「……あぁ」
眼鏡の男…確か響助、と聞いた気がする。響助は部下の一人にケースの中身を確認させて口元に笑みを浮かべていた。白い幽霊…こっちは宗だったか。宗は金を見たのかそわそわと落ち着かない様子だ。
こっそりとケースに手を伸ばす宗を響助は一蹴した。
「宗、それは取引の金だ。手を出すな」
「しかしなぁ、こんなものを見てしまっては…」
「宗」
「……分かった分かった、そう怖い顔をするでない」
「何だ、思ったより仲が良いのな」
ぽつりと零れた一言を拾ってしまったらしい二人は怪訝そうな顔でこっちを見る。顔が「何を言っているんだお前は」と言いたげだ。
「……変な事言わないでくれ」
「そうだ、仲良くしてるつもりは毛頭ないぞ」
「つってもなあ」
「そういうあんたはどうなんだ」
「我?どうとは、何が」
はて、こいつらと取引するのは初めてだった筈だが。大きく首を傾げながら考える。すると、その様子を見て響助は小さく溜息を吐いた。何でだ。
「あんた、女が居るんだろう?」
「は?」
居るわけないだろ。
「何を言っているんだお前は」、とブーメランで投げ返してやった。我に女なんかいる訳が無い。そもそも興味が無い。確かに人間の女でやけにすり寄るような事をした奴はいたがガン無視してたら居なくなってた。あんまりにもしつこい奴はちょっと掃除した事もあるけど。
どちらにせよ、我には好いた女など今の所いない。姫金?あれは別だろ。
「いない?じゃあ、あんたがしょっちゅう金をやってるあいつは」
「……もしかして、姫金の事か?」
「さぁ、名前までは知らないが随分と金使いが荒かったし洒落た服装してたのは確かだな」
「…リボンとかハートとかキラキラジャラジャラとか?」
「あぁそんな感じだ。なあ、宗」
「そうだのう、儂も見たがあれは凄かった」
あぁ、何だやっぱり姫金か。何だこの分かった途端の察し加減。とりあえず姫金の為にも否定しておこう。こんなのが恋人だのと言われちゃ流石に困るだろうし、あいつああ見えて結構乙女だから。
「姫金は女じゃねぇし」
「は?じゃあ何なんだ」
「我の影」
「……あの、神の動くスタンド?」
「ああうん、それ言うと姫金怒るから言うなよ。あれでも乙女らしいから」
暴れられると肉弾戦じゃ手が出せなくなる。あの細腕のどこに力あんだよ、ってくらい怪力だからなあいつ……。
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