※性、暴力、虐待、凌辱、死体描写有


 なまえの母親は娼婦だった。最悪の母親だ。昼間から酒をのみどこからか連れ込んできた男とまだ日も落ちないうちから情事にあけくれていた。
 学校にも行かせて貰えなかったなまえはその行為を目の当たりにせざるをえなかった。
 そのうち家にいたくなくなり徘徊するようになった。男に買われその金でハッパを買った。魅惑的な白い粉は彼女の生き甲斐だった。
 なまえにとって町行く人々も皆、獣に見えた。性というものは獣のように貪るものであり大切にするようなものではなかった。

「キミ、誕生日と血液型は?」
「さあ…」
 安ホテルの鑑賞植物とベッドしかない部屋になまえと男はもたれかかりあいながら腰かける。なまえはすでに衣服をすべて脱ぎ捨てていた。
 17歳になったなまえは、いつものように売春相手を探していると目についたのがこの男、メローネ。なかなかの色男なのでためしに声をかけると彼は彼女の顔を凝視し、この部屋に連れ込んだのだ。
「じゃあ今までどうやって誕生日を祝ってたんだ?」
「祝われたこともないし、祝おうと思ったこともないわね」
「ベネ!君のその生まれ育った環境、とてもいい!しかしターゲットとの相性が分からないぞ…」
「ねえ…」
 なまえはしびれを切らしてメローネの首に腕を絡めて首にキスをした。ホテルに連れ込んだくせに奇妙な機械ばかりをいじくりまわして相手にしてくれない。
「まあ慌てるなよシニョリーナ…君は最高だ、最高の女性だよ。その若さでその素質をもつなんてな!…ところでクスリはやってるのかい?」
「…けっこうやってる」
「ベネ!ベネ!最高だ!」
 彼はなまえの腰に手をまわしキスをした。大層嬉しそうな顔で機械になにかを打ち込んでいる。なまえは自分が無視されているようで面白くなかった。
「さて、じゃあそろそろ」
「するのね?」
「ああ、俺はこういうのは楽しみたいから、キミのお好きな方法を選んでくれ」
 メローネは膨大なキスの方法の図をなまえに差し出した。普通の女性ならうろたえ恐怖に顔を歪ませるだろうが、なまえは「へえ、こんなやり方もあるのね」などといいながら吟味した。
「早く選んでくれよ、待ちきれない」
「散々人を待たせておいてよく言うわ。あ、コレとかどうかしら。普通のは飽きちゃったのよね」
「またマニアックなのを選ぶな」
「まあね。…こんなの提示しておいて、テクニックがないなんてナンセンスなことは言わないでしょうね?」
「安心しろ、なにも問題はない」
「良かった」
 なまえはだらりとベッドに寝そべった。回数をこなしているからか、彼女はどのような体勢が自分を一番官能的に見せるかを知っていた。
 細く真っ白な四肢には生々しい擦り傷が赤く浮かんでいた。仰向けになると形の綺麗な乳房は重力で潰れた。
 メローネはゴクリと生唾をのみこみ太ももをさすりながらなまえに覆い被さった。
「キミは…だいたい何歳だったか。その若さでこの色気、相当な数の男に抱かれてきただろ?ベネ、キミは最高だ」
「ありがとう」
 首筋に彼の吐息を感じながらなまえは目を閉じた。



「んっ…は!」
 次に視界が覚めたのは日が登ってからだった。彼のテクニックがあまりにも上手かったのか最中の記憶が全く無い。
 部屋を見渡すとベッドの角に腰かけ機械に向かって「いいぞいいぞ」と独り言を呟く彼がいた。
「ねえ…」
 メローネの肩に手をおこうとすると、彼は突然振り向きなまえの手首をつかんだ。彼はニマニマと恍惚の仮面を被っているようだった。メローネは手首を離し、なまえの肩を抱いた。
「キミか!キミ、やっぱり最高だよ!三つ子だって!?どれだけの悪意を秘めているんだ!?」
「三つ子?なんのこと?」
「ああ、そうか。見えないんだったな…いや、今後も世話になるかも知れないし話してもいいかな」
「無視しないでよ。なんのことだって言ってるでしょ、メローネ」
 メローネは少し考え込んでから口を開いた。
「俺には不思議な力があるんだよ」
「不思議な力?」
「そう。俺の能力は女がいないと成り立たないんだが…女の内面的悪を子として具現化する能力さ。具現化したコドモは俺の殺したいやつを殺してくれるんだ」
「よく分からないんだけど…具現化?頭がおかしいの?」
「キミには見えないから信じるも信じないも自由だ」
「…」
 なまえは不愉快だった。彼は自分を無視するし訳の分からないことを言うし、自分の世界から出てこないようだった。
 無関心な態度を取られるのがなまえは何よりも嫌だった。
 メローネが一向にこちらに話をあわせてくれないので、彼の妄言に付き合ってみることにした。
「で、その三つ子ちゃんはどこにいるの?」
「ああ、君の背中にくっついているよ」
「え!」
 驚いて背中を触ってみるがなにもなかった。彼も同じくクスリでラリッているのだろうとなまえは考えた。彼女もよく見えないものが見えることなんてしょっちゅうだ。
「今は殺意ってのを教えているところだよ。俺は今まで何人も生ませてきたが、そいつらはとても賢いな。逆にどう教えていいか悩むよ」
「私に似たのね。バカっぽいあなたが教師って面白い」
「ほざけよ娼婦が…知性のちの字もない癖に」
「失礼ね。これでも文字はちゃあんと読めるし、何もないときはよく図書館に通っているのよ」
「ホォ〜!熱心なこった!」
 メローネはきっと信じてはいてくれないのだろう、からかうように口の端を上げていた。
「猟奇殺人犯に多い生い立ちってなんだか知ってる?私も本で読んだだけなんだけど」
「そんなのがあるのか?」
「ええ、幼少期に異常な性体験や性的虐待を受けると猟奇に走りやすいの。性的トラウマ?っていうのかしら、性に対して異常な執着や恐怖を持ちやすいの」
「ホォ〜!面白いな。世間のオエライ団体が虐待禁止と声高に叫ぶわけだ」
「…試してみない?きっと三つ子ちゃんもいい猟奇殺人鬼になれると思うんだけど」
 へらへらと笑っていたメローネが真剣な表情になった。その冷たさはなまえに彼がその道の人間であること感づかせた。
 なまえがメローネの膝に自ら足を乗せ、首に手をまわし顔を近づける。メローネの生暖かい吐息が鼻を通る。
「お前は本当に最高だ」
 腰を引き寄せられたかと思えば軽く持ち上げられ視界が一回転した。ベッドに身を委ねさせられたかと思えば逃げ道はメローネの体によって遮られる。
「私が仰向けになっていいのかしら?三つ子ちゃん、潰れたりしない?」
「大丈夫さ…逃げ道をふさいで見たくないものを見るくらいがちょうどいい」
「あなたって最高の父親ね…んっ」
 口を塞がれた。乱暴に口内をかきみだされ、歯が当たって舌や歯茎の切れる感触がした。薄ピンクの唾液をだらだらと滴らせながら二人は獣になった。



 真っ暗の部屋で何度繋がっただろう。快楽のままに行動するなまえの思考は停止していた。
「ひぁ、あ…またいれるのォ?さっきも出したのに…」
「ああ、俺はちょっとばかり絶倫なんでね」
 ぐちゅりと彼のメローネがなまえの秘部に侵入し荒いキスとは裏腹に無駄な動きもなく的確に性感帯を刺激した。
「あっ、あっ、だめぇ、またイクッ…!」
「ああイけよ…その方が締まりが良くなるからなぁ?」
 自分も、死にたくなるほど嫌いだった母と同じ運命を辿っている。もしこの男の子供を孕めばその子供もまた自分のような運命を辿るのだろうかとぼんやり考えた。
 四つん這いになり彼の猛りを受け止めると甘い痺れが腰を支配し力が抜ける。ベッドにへたりそうになると腰をつかまれ無理矢理に奥まで刺激された。
 繋がっている部分は訳の分からない程の液体で塗れ光っていた。
「ハァッ…だらしないぞっ…、キミから誘ったくせに」
「あ、いい!ああ、いいわメローネッ!」
「くっ、雌め…」
 素早く打ち付けていた腰を最後に二、三度ゆっくり力強く動かし中に精を吐き出した。
 熱くなったそれを引き抜くと、愛液と精液と血液が一緒になって白い太ももを伝わり落ちた。
「ふー、ふぅぅ…」
「おいおい涙目になってるじゃあないか。良かっただろ?俺とのセックスは」
 メローネのにやり顔は母を抱いていた男のいやらしさと同じものを含有していた。
「…その顔気持ち悪い」
「あ?キミの性欲もなかなかだがな」
「…」
 心底気持ち悪いと思ったがそれを理由に拒否する権利などなまえにはなかった。彼女もまた、もしかすると彼女の母以上に汚れてしまった。
「気持ち悪い、自分が気持ち悪い…」
「おいおい、どうしたんだ」
 なまえはふらふらと起き上がり窓に手をついた。鈍い頭痛と吐き気から口に手を当てている。
「もしかしてつわりかァ?他の男の子供を孕んでるんじゃあないのか」
 孕む―――その言葉を聞いた途端に頭の痛みが加速し彼女の過去の映像がフラッシュバックした。
「ああああ!頭が!頭が痛いッ!助けてェ!」
 頭を乱暴にかきむしりめちゃくちゃに振り回した。メローネはぎょっとして彼女を制止しようとしたが若い少女のものとは思えない力で顔を殴られ振りほどかれた。壁に背をつき口の端の血を舐めた。
「クスリが切れたか…?」
「ああああ!お母さん!お母さん!糞!出ていけ!死ねッ死ねッ!ああああ私に触らないでッ!男に触った手で頭を撫でるなああああッ!」
 次になまえは枕元の電気ランプを手に何もない空中を攻撃し始めた。振り回されたランプは壁に当たり破壊された。
 細かいガラス片があたりに散らばり彼女の体を傷つけるがそれも構わずに攻撃し続けた。
「薬物中毒ってのはおっかねェなぁ…暗殺チームで良かったぜ」
 メローネはその異常な光景を冷や汗をかきながら眺めていた。
「嫌あ!こっちに来ないでえええ!」
 ガシャァン!
 なまえは窓ガラスを殴った。その右腕はいくつものガラス片が刺さりおびただしい血液で赤くなっていた。
「はあ、はあ…」
「お、オイオイ…さすがにそれは不味い、死ぬぞ」
 メローネは再び制止しようとするが、なまえは気にも介さず腕に刺さった一番大きなガラスをブツリと引き抜き握り締めた。
「…」
「泣いてるのか…?」
 激昂し奇声を発し続けていたなまえは突然おとなしくなりガラス片を見つめていた。
「もう…繰り返したくない…お母さんになりたくない…」
「チッ、ヤク中が…一旦眠らせるか…」
 メローネがなまえを拳で眠らせようとしたときだった。彼女はギロリとメローネを見上げ、ガラス片を彼の顔に突き立てた。
「ッぐあああ!このクソアマッ!何しやがるッ!」
 近づき懐が空いたところに蹴りを入れると鈍い音と共になまえは床に崩れ落ちた。吐瀉物がガラスと血液に追加された。
 刺された右目に鋭い痛みが走る。
「クソッ!クソッ!これだからヤク中は嫌いなんだよォ〜!」
 倒れこみすでに意識のないなまえの顔を思いきり踏みにじった。口の中を噛んだのか、白い液体の中からコポコポと赤黒い血がにじみ浮かんできた。
 気のすむまで暴行を加え一息ついてパソコンを抱えた。
「そろそろターゲットの方へ向かわせるか…」
 タンとキーを一つ叩いてスリープモードを解除すると、プツンと男の無惨な死体が画面に現れた。
 股間は真っ黒になるまですりつぶされ、顔の下半分は後頭部を数センチ残して綺麗に切り取られていた。加えて両手、胸部、腹部からはすりつぶされ、内臓がははみ出し、四肢は曲がるはずの無い方向に曲がりきっていた。
「うおッ…ひでえな、こりゃ…」
 画像の下には一言、「気持ち悪い」とあった。
 メローネは床で眠るなまえにちらりと目をやり、膝を叩いて唸った 。
「ベネ!本当に最高の女だッ!」
 仰向けになっているなまえの口が液体で満たされているのに気づいたメローネは窒息死しないように彼女を足蹴し回転させて、液体を床に吐き出させた。
 頭を抱えクックッと笑った。嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。



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