なまえはごく普通の家庭に生まれた。仲のよい家族にかこまれて、愛されて育ってきた。自分は幸せな人間だと思っていたが、1つ悩みがあった。スタンドの存在だ。
 何をするでもなかったが時おり空中に現れては頭蓋骨がじっと彼女を見つめた。スタンドというものを知らなかった当時はそれを死神だと思ってた。家族や友人に話しても誰もなにも見えないぞと信用してくれなかった。
 スタンドが現れる間隔が狭くなってくと、いよいよなまえの精神に異常を来きたし始めた。不気味な頭蓋骨が鼻先がくっつきそうな距離まで近づき顔を覗き込んでくるのだ。
 そんななまえを友人たちはあろうことか面白がりいじめるようになった。
 ある日、人気のない所で3人に呼び止められた。
「お前、死神が見えるんだってな?」
 にやつきながらなまえの頭を掴む友人は既に友人ではなくなっていた。
「もうすぐ死ぬんじゃね」
「ははは!かもな?こいつの顔、すっげー痩けてるもんな」
 下品な笑い声。なまえは悲しかった。友情とはこんなに軽んじられるものだったのかと涙が滲んだ。友情は確かに大切だがこの友人がただ単に『信用に値する人間』ではないのかもしれないとも思った。
 その時だった。背中からズルリと現れたそれが一人の背中を、その頭蓋骨から垂れ下がる脊椎で突き刺した。
「アグッ!」
「お、おい、どうしたんだよ!」
「あ、あ…」
「う、うわああああ!何だ!?」
 シューシューと血飛沫をあげながらそいつは死んでいった。バキバキと背骨が折れそれにつられて筋肉がめちゃくちゃに伸縮する様子はまるで壊れた操り人形のようだった。
「かっ…あ」
 ズギュン。身体中の血液が抜かれ、絞りかすがパタンと地面に倒れた。残りのものは唖然とその状況を見守っていたが、なまえの顔に健康的な血色があるのを確認すると散り散りに逃げ出した。
「うわああああ!悪魔だ!死神だ!吸血鬼だ!」
「なまえに近づくと殺される!」
「ぐあ」
 だが時既に遅し。なまえのスタンドは二人の生気を順番に吸い取り、殺した。なまえは全く動けなかったがただ1つ分かることがあった。
 自分が彼らを殺した。その事実はさらになまえを苦しめ疑心暗鬼の暗闇のそこへ突き落とした。
 自分を疑った素振りを見せたものは容赦なく殺した。15才になってから8人殺した。
 そして16才の誕生日――――なまえはなまえのためにケーキを用意してくれていた母親を殺害したのであった。「この間亡くなった誰々の事なんだけど」そのたった一言を引き金に、なまえはその時一番なまえを信用してくれている者を殺してしまった。
 残り少ない血液をたたえた母の亡骸を何度も何度も揺すった。しかし干しブドウのようにしわくちゃになったそれは動くはずもなく、なまえは血にまみれたその手で警察に連絡をいれた。
「母を殺しました。今まで、友人も知らない人もたくさん殺しました」
 あまりにも残虐な殺害方法で何処にも彼女がやったという証拠は何処にもなかったがその証言のみで彼女は監獄に入った。精神は至って正常だが、少し被害妄想が過ぎる性格であった。



 薄い月明かりの下で語られるなまえの半生をプロシュートは静かに聞き入っていた。
「本当は独房に入れて欲しかったんです。ううん、そんなのじゃあなくって死刑の方が良かった」
 先程の騒動から少し落ち着いたのか、なまえの震えは収まっていた。目を伏せて話す横顔は少し赤らんでいた。
「私は生まれてはいけなかったんです。友人たちの言う通り私は死神なんだわ…」
 なまえのそのあまりにも悲しそうな表情がプロシュートの感情をくすぐった。リゾットの「信用しなければ」という言葉が思い出される。「そういうことだったのか…」と頭をかきながら呟くと、なまえは不思議そうに「なんのことですか」と聞いた。
 目の前の少女は誰かに支えてもらわなければおれてしまいそうなほどかよわく、彼女も誰かを求めている。しかし、彼女の一時の気分で殺されてしまうとなれば誰が支えようとするだろうか。
 あらゆる人間は彼女を避け、彼女もまたその優しさゆえに人間を避けてきたのであろう。
 そう思えば、目の前のなまえにあわれみの情がわいてきた。支えてやろうとまではいかないものの、信用できるのに信用しない自分と思わず対比してしまった。
 なまえの頭を手で包み込み引き寄せた。彼女は男の懐の温もりを知っているだろうか。
「気に病むことはない。お前はなにも悪くない…俺は絶対に離れない。だから、信用してくれ」
「先輩…」
 なまえの目尻に涙が溜まっていく。プロシュートのうでの中で小さく何度もこくこくとうなずいた。



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