新しいリーダーを勤めるのは古くから付き合いのある男だった。自分もおなじチームに配属されることとなったプロシュートはアジトとなる小屋へ足を進めていた。
 その男―リゾットとは同時期にパッショーネに入団したウマのあう数少ない友人であった。
 3年前にスタンド能力を身に付けてからというもの、二人に与えられる仕事と言えば暗殺ばかりであった。今まで別個に受けていたヤマであるが、専門のチームを構成した方がよいだろうというボスの一声で彼らは同じ小屋に集められたのだ。
 細い路地を抜けドアを押し開けるとすでに一人の男がテーブルについていた。
「久しぶりだな、リゾット」
「…プロシュートか」
「フッ、お前も変わったな…組織にとっても重要な暗殺を請け負うチームのリーダーだなんてな…ま、コロシの専門家のお前がリーダーにふさわしいかな」
「…そういうことを言うのはやめろ。それに専門家なんてボスの都合のいい言葉でしか無い。信用できない奴等をこうやって豚小屋にブチこんでるだけだ」
 久しぶりの再開に感動する気配もなく、二人は何もない午後に会話を交わすように対峙した。
「コロシ、暗殺なんて汚い仕事をするやつなんて俺だって信用したかねぇよ」
 プロシュートはフンと鼻を鳴らした。どこか諦めを帯びた口調だった。
「そういう奴等はひとつにまとめておいた方が動向を知りやすいだろうしな…」
「ああ。ヴォルペ…分かるか?まだ大学生らしいが奴は麻薬チームに入ったみたいだな」
「ああ、あのコカキのジジィの所か。麻薬チームらしい能力者の集まりだぜ、コッチもそうだがな」
 椅子を引きリゾットの向かいに腰かけた。小さな小屋なのでドアをくぐればその内装はほぼすべて把握できる。見たところ、リゾットとプロシュート以外はまだ到着していないようだ。
 リゾットは肘を膝につき、握りあった両手を見下ろしていた。
「面倒なことは…信用できない人間は…"始末しやすいように"そうやってひとつにまとめて首輪をかけている…!アイツはそういう人間だッ…」
「えらく合理的な方法じゃあないか。伊達にパッショーネを牛耳ってないな」
「ああ、だがしかしボスのやり方は気に入らない。冷たいやり方だ」
 ギチギチとリゾットは拳を握った。彼は昔から血族だとか友情だとかを大切にする、暗殺に向いていなさそうな人情深い性格であった。
「暗殺という非人道的な仕事をしているからこそ、俺は信頼というものが大切だと思っている」
 また始まったとプロシュートはため息をついた。冷ややかな視線にも気づかずリゾットは静かに怒りを燃やしていた。
「信頼、ねえ。暗殺ってことは同時に重要機密を抱えるってことだ。下手したらおなじチームの誰かをやらなきゃいけなくなるかも知れねぇ」
「そんなことは絶対にさせない。その場合は全力で守る」
「なッ…」
 真顔でそんな甘ったれたことを言うもんだからプロシュートは呆気に取られてしまった。前から変なところで甘い奴だと思っていたがここまでとはさすがの彼も知るところではなかった。
「馬鹿かッ!テメーは!そんな甘ったれたこと抜かしてると味方に殺されちまうかもしれねェンだぞ!?わかってんのか!!」
 拳を握り思いきりテーブルを叩きつけてもリゾットは動かない。瞳を自身の拳からプロシュートに動かしただけだった。
「だからなんだ。命令だからといってチームの誰かを殺すというその意思こそ俺にはわからない」
「何言ってんだテメェーッ!いい子ブッてんじゃねえぞ!」
 立ち上がりズカズカとリゾットの正面へ立つ。彼の頭を鷲掴みグリグリと頭蓋骨を締め上げる。
「馬鹿か?俺達はコロシを任されてるんだぞ?別にお前が気に入らねえってんじゃあない。そういう甘い考えで命を落としかねねえってんで心配して言ってやってンだよ」
「余計なお世話だ」
「んだとぉ…ッ」
 プロシュートがリゾットの胸ぐらをつかもうとした瞬間リゾットは勢いよく立ち上がり言った。
「暗殺者である前にッ!俺達は"人間"だッ!暗殺という仕事をしているからこそ、そういう低いレベルででも人間を捨ててはいけないと俺は考えるッ!」
 先程まで静寂のなかにいたリゾットの突然の激昂を目の当たりにし、プロシュートは一瞬怯んだ。
「俺は仲間にそこまで堕ちては欲しくないからこう言うんだッ!俺達は都合のいい道具じゃあないッ!人間なんだよッ!落ちちゃあ何もかもが終わってしまうと言っているんだッ!プロシュート!お前はそこまで落ちるか!?」
「クッ…リゾット…!キレイ事抜かすなよマンモーニッ!道具だ落ちるだってなぁーッ!もう俺たちにそんなこと言える資格は無ぇんだ!いい加減受け入れろッこのダボが!」
「受け入れるのはお前の方だプロシュート!楽な方に流されていくだけではお前が潰れてしまうぞ!」
「ンだと!?」
 プロシュートがリゾットの胸ぐらをつかもうと腕を伸ばす。同時にギイとドアを開く音。

 なまえが殺人を犯しパッショーネにスカウトされたのはつい最近のことであった。早速配属されたのは暗殺チーム。連続殺人を後悔していたなまえは「またあんな思いをしなくてはいけないのか」と泣いたが、自分の能力にはもってこいの分野だと納得し仕方の無いことであると受け入れた。
 内密に出所手続きが交わされ、変装をしこっそりやって来たのは"そういう類いのアジト"ではなく意外と外観のいいだけど目立たない小屋であった。
 緊張しながらドアをノックするも返事がない。ドアに耳を押し当ててみると男の声がした。二人は大声で言いあいをしているようだった。なるほど控えめなノック音なんてかき消されるだろう。
 これは直接入った方がいいなと思いドアに手をかけ中に入った。同時にバキッと音がした。なまえが暗殺チームに配属されて始めてみた光景―それはプロシュートがリゾットを殴る場面だった。

「大丈夫ですか?冷やしたタオル、使ってください」
「すまないな」
 小屋には最低限の居住空間があり、2人程なら住める広さだった。テーブルに氷水の入った洗面器を置き、リゾットの隣の椅子に腰かけた。
 プロシュートは心底不満そうな顔で部屋の隅の壁にもたれ掛かっていた。
「ちっ、なんだそのガキは。もしかしてソイツも暗殺チームか?」
「ああ、メンバー以外がこの小屋に来ることは無い」
「ふざけるのも大概にしろ!暗殺は遊びじゃあ無いんだぞ!」
「11人」
「あ?」
「11人…この子が証拠も無く殺した人間の数だ」
「な…」
 11という言葉が出たとたんなまえはしおしおと小さくなった。そしてリゾットの言葉に付け加えた。
「12人目はわたしの母親でした…自分で殺したのがわからなくって、その場に残ってしまったんです。母の悲鳴で警察を呼ばれたみたいで…」
「証拠不十分だが明らかに他殺だったのでな。そしてパッショーネが独自に調査をした結果この子が連続殺人犯だとわかった」
 淡々とした口調で少女の身の上を話すリゾットに嘘だろ?と言いたげに目を見開いていたプロシュートであったがすぐ合点がいったように一言発した。
「スタンド、か」
「…はい」
 なまえは観念したようにうなずいた。連続殺人犯ということだが…両腕で自分の体を抱え込みふるふると震えるその姿はどうしても普通の少女にしかみえなかった 。
「普通のガキにしか見えないがスタンド使いといえば話は別だな。警戒させてもらうぜ」
「それは困る、これからお前ら二人にはここを拠点にチームをひとつ潰してもらうからな」
「なっ…!リゾット、正気か?俺とそのガキでか?」
 なまえもプロシュートと同じく驚いてリゾットを見上げた。チームをたった二人で?暗殺チームが集まると聞いていたのでてっきり10人弱程度は集まるものだと思っていたのだから。
「不可能じゃあ無いが、信頼が不可欠だ。お互いがお互いの背中を守り合うんだ。いいか?必ずだ。さもなくば死ぬ」
 そういってリゾットはタオルを置いた。
「ありがとう、健闘を祈るよ」
「は、はい…」
「じゃあ」
 リゾットはその場を後にした。彼が小屋を去るまでプロシュート微動だにしなかった。いや、できなかったのだ。
 親友への不満と、まだあどけなさの残る少女が相方という冗談みたいな状況に頭が着いていけなかったのだ。まだ、この少女が若くして仕事慣れしていれば良かったのだが。
「え、えと。プロシュートさんですよね。よろしくおねがいします」
 不安げな表情で挨拶をする少女は余りにも頼りなかった。連続殺人犯とはいえ、それはただの殺人で仕事ではない。
 次にプロシュートの体が動いたのは自身の額をパシンと叩くときだった。
「くっそ…これからどうしようか…」
 乱暴に椅子を引き座り込み、なまえの方に目をやる。上目使いでプロシュートの顔を見ていたのかガチリと視線があった。
 突然のことでビックリしたのだろう、なまえは「あの、えっと、」と取り乱したあと小さくガッツポーズをした。
「わたし、がんばります」
 その姿は本当になにも知らなさそうな少女のようで。
「ッハァ〜〜〜〜〜〜〜………」
「せ、先輩?」
 プロシュートはため息をついた。



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