ギクシャクとした雰囲気がピリピリと肌に刺さる。何を話せば良いのだろう。ちびちびと紅茶を飲んでその場を過ごしている。
 よく顔を見ると、仗助君も億泰君も犬のような感じでコロコロと表情が変わってみていて楽しいが容姿が容姿なだけに威圧感は大きい。なぜ康一くんはこの二人と普通に会話できるのだろう。
 そんなことを考えながら様子を眺めていると、不意に話を振られた。

「そういえば、ディアナさんはなんで杜王町に引っ越してきたの?」と、億泰くん。凸凹した顔をくしゃっとほころばせながら目をあわせてきた。
「えーと、養父が亡くなって養母が再婚したの。再婚相手がこの街で仕事をしているから」
 亡くなってという言葉を放つと一瞬空気が重くなった。申し訳なさそうに左手で後頭部をかきながら億泰くんは言う。
「あ…なんか、ごめん。悪いこと聞いた?」
「いいの。今はもう立ち直ってるし、新しい養父もいい人だし。今はこれからの生活が楽しみで仕方ない位なんだから!」
 にこやかに返すと億泰くんはホッとした顔をしていた。
 それから億康くんが可愛い可愛いとお世辞を言うもんだから、そんなことない人並みだよなんていう会話を広げた。見た目はこわいけど話してみれば案外気さくでいい子だ。
 康一くんも付き合ってる子ー由花子さんも可愛いけどディアナさんも美人だよと、さりげなくのろけをかましてきた。由花子さんか、出会ったことはないけれどこの康一くんの様子からして二人の関係はかなり良好なのだろう。
 問題は向かって左に座る仗助くんだ。言葉数少なく、相づちはこまめに打つものの自分からはしゃべろうとしない。紅茶の入ったカップを口に近づけてはこちらを見ている。その視線の痛いこと。ついに耐えかねて、勇気を出して言葉を放つ。

「あの…私の顔になにかついてる?」
「ん?あぁ、う〜ん、やっぱりアンタの顔どっかで見たことある気がするんだよな」
「仗助ェ〜だからその文句はダセェって!」
「うるせぇよ!深い意味はねぇって!」

 一口紅茶を飲み、カップを置く。そしてこちらを見る。

「養父が二人かぁ〜実は俺も本当の父親のこと全然知らずに育ったんだよ、だから似てると思ったのかもなァ〜」
 軽い感じでにかっと笑う。
 しかし、彼の言葉で否定しておかなければならないことがある。
「そうなの!私たち同じなのね。でも私は物心ついてしばらくまでは実の父親と暮らしていたから、全く知らないわけじゃあないわね」
「そうだったのかい?その実の父親はなんでまた…」
 隣に座る億泰くんが私の顔を覗き込むようにして問う。
「さあ…住んでいたところはかなり大きな屋敷だったし、侍女や執事もいたから貧乏って訳じゃあ無かったのよね」
「なんで養子になんか出されたの?」
「細かいことはよく分からないけど、父は体が弱いって言って全く部屋から出ない人だったから…もうすぐ死ぬかも知れなかったからだと思ってるわ。知らされてはいないけどもうこの世にはいないんだなぁって、何となく感じるの」

 闇に浮かぶ白い肌と金の髪。色のある瞳。愛のこもった声。もう随分と昔のことだがまぶたを閉じれば鮮明に思い浮かべることができる。
 少し顔をふせて思い出していると、また空気が重くなっていることに気づく。

「あ、あー!でも不思議と悲しくはないのよね、これが!」
「無理しなくていいよ、、ディアナさん」
「なんか…ゴメンな?ほら、仗助も!テメーがこの話題引っ張ったんだからな!」

ふと、正面を見ると無表情の仗助くんが私を見て、いや睨み付けていた。

「ああ、ゴメンな………でよォ、実の父親ってなんて名前?大きな屋敷ってんだからさ、結構な金持ちなんだろ?」

 おいおい、そこまで聞くか?しかし、拒む理由も無くて私は正直に答えた。

「ブランドー、ディオ・ブランドーっていうの」

 空気が凍りついた。
 何故こんな状況になったのか全く検討もつかない。仗助くんは無表情のままだし、康一くんはギョッとした顔。
 さっきまで「落ち込んだよな?うちの仗助がゴメンな」と肩に手を置きにこにこと笑っていた億泰くんは驚きを露にしてそっと手を引いた。
 ああ、どうして?何でこんなに居心地が悪いのだろう?私、なにか悪いことでもした?

 億泰くんは立ち上がって一歩下がり、私に背を向ける。その時一瞬彼の顔が見えたがー影がかかって詳しい表情は分からなかった。

「あ、あの…億康くん…?」
「…スマン」
「え?」
「俺たちは今から大事な話があるんだ…身の上話も終わったし、そろそろ帰らなくちゃあな」
「そんな…」

 普段の私なら怒り始めているだろう。しかし、億泰くんの広くてあまりにも寂しい背中が帰ってくれと言っている。

 何で?どうして?康一くんも仗助くんも何も言わないの?私まずいこと言ったかな…
 思わず目尻から涙が溢れそうになるのを耐えつつやっと言葉をひねり出す。

「あ、あの、なんか…私ここにいちゃいけないみたいね…?うん、そろそろおいとまするわ。クッキー、皆で食べてね」

 小走りで玄関へと向かう。康一くんに名前を呼ばれた気がしたが無視をした。玄関へ続く廊下でケーキを持った康一くんのお母さんとすれ違う。
「あら、用事かなにかあるのかしら?急がないならケーキだけでも食べていきなさいな」
「いえ、今日は…またの機会に」
 きびすを返す。ああ、何で。背中で「残念だわ、またね」という呟きを受け止めた。




********

 部屋に残ったのは男三人。
「思い出した。前に承太郎さんが持ってた写真に似てたんだよ」
「でも!だからってあんな言い方は酷すぎるよ!今からでも遅くないよ!僕、彼女を呼んでくる!」
 ソファから康一が立ち上がると、ドンッという鈍い音が響いた。窓のそばの壁に腕をつきうなだれた背中をしている億泰がいた。
「追うなッ!康一ィ……お前、アレまだ読んでないのか?」
「アレって…?」

「皆〜ケーキを持って来ましたよ。さっき、ディアナちゃんが帰っちゃったけどあなたたち何かあったの?」
 状況を察してかいつもの明るいさえずりのような声は、子を心配する母の低い声。4つのうち3つのケーキをテーブルに並べ、ケーキの影にお盆の上にのせてあった封筒をつまむ。
 「康ちゃん、さっき承太郎さんからお手紙を預かったわよ。あとで見ておいてね」

 三人の視線が封筒へ集まる。居心地が悪くなったのか、母親は「ごゆっくり」と言ってそそくさとその空間から逃れた。


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