そして、京都に行ったからといって私の生活が劇的に変わるわけではなく、というよりまったく変わらないので、私は次の日、いつものように平穏に目覚めを迎えた。朝日が眩しい。
 ちなみに昨日鬼灯さんたちに話すことになった私の能力だが、今では制御することができるようになっているので問題はない。だって、今でも感情の高ぶった時に物が勝手にねじまがるようなことがあったら、今頃私はこうも平穏に暮らしてはいないだろう。
「さて、と」
鬼灯さんたちがやってきてからしばらく、大きな依頼がないので暇を持て余している。大きな依頼続きでも疲れるが、何もないのは逆に暇疲れする、などと行ったら世間の社畜様に殺されてしまいそうだ。

 居間におりていくと、珍しく異形二名が、喧嘩もせず仲良く頭をつきあわせて何か話していた。私がわざと足音をたてて近づくと、白澤さんがこちらをむいて、ちょっと困ったような笑みを浮かべた。珍しい。どうしたのだろう、と思って、問いかけようとすると、白澤さんが先に口をひらいた。
「透子ちゃん、…どうやら、僕たち、あっちに帰れそうなんだよなね」
……地に還れそう?なんのこっちゃ。

 話を聞くと、どうやら、先日、少女(というか幼女)を助けて退治した異形が出てきた、地の裂け目が、地獄とつながっていたらしい。
「ただ風のにおいを嗅いだだけなので、断言はできませんが、ほぼ確実と見て間違いないでしょう」
鬼灯さんがそう言った。私は、唐突なその話にただ頷いているしかなかった。そうか、あたりまえのようにこの人たちと生活してしまっていたが、そうだ、この人たちは帰らなければいけないのだ、元いた場所に。
「だから、ちょっと急なんだけどね、僕らもう一度その公園に行ってみたいんだ。いいかな」
白澤さんがかわいらしく小首をかしげて、上目遣いになる。きもちわるい。いや、見た目はたいそう麗しいけれど、ウン千歳(もしかしたらもっと)の神獣がこれをやっていると思うと、ちょっとね。
「わかりました、つれてけばいいんですね」
「ありがとう、恩に着るよ」
 そういうわけで、やることもないし、私達は朝ごはんを食べてすぐに公園に向かうことにした。
 この前来たのは深夜だったから、当然のように人気はなかったが、今は昼前。小さい子どもたちが、遊んでいる。そんな中場違いな私達、見た目は成人男性な二人と、ハタチ前後の女性。お二人は周りの目など気にならないだろうが、私は多少気になった。とは言ったってどうにもならないなんてことは百も承知だけどね。
「ここですね、ちょうど」
裂け目ができてたあたりまで、二人を案内する。案内とはいっても一緒についていったぐらいだ。なにしろ二人共あの場でずっと見ていたのだから。
 白澤さんがひとつ頷いて、すっと地面に膝をついた。同時に、ふっと景色から色がうすれる。何しやがった、神獣め。
 神獣は、両手で印をむすんで、そのまま手を地面に叩きつけざまなにかをつぶやいた、おそらく、中国語。白澤さんの両手のすきまからもれた光が、白澤さんを中心に、波紋のようにひろがる。モノクロになっていた景色が消え失せる。そして、同時に私の意識も消え失せた。倒れる身体が、力強い腕でささえられたのを感じて、その記憶をさいごに私の視界が切れた。

 そして、布団の中で目を覚ます。最近このシチュエーション多すぎだろ、というつっこみを自分でいれてから、ゆっくりと身体を起こした。たぶん、白澤さんが変なことを始めて、私は意識を失ってしまった。それから、それから、それから……。
 何があったか思い出せない、という事実から導き出される結論は、だれかが私をここへ運び、寝かせてくれたということ。そして、カーテンの開いた窓から見える太陽の位置からして、今は三時過ぎ。
「寝過ぎだって、自分」
ふわふわとした思考の中、それぐらいしか口から言葉が出てこなくて、私はおもわず両手で顔をおおった。そうだ、二人はどこだろう?
 身体に異常はないので、立ち上がって部屋をでた。向かいの部屋にも、となりの部屋にも、気配はない。ならば、下だろう。階段をおりて、居間をのぞく。……そこにも、二人はいなかった。
「まさか、ね」
帰ってしまった、なんてことはないだろう。きっと、まだ、どこかにいるはずだ。
「……なんで?別に、帰っちゃってたって、おかしくないじゃん」
自分で自分に問いかける。白澤さんはともかく鬼灯さんは忙しそうな人だったし、帰れるのなら一刻もはやく帰るだろう。
 椅子をひいて、いつも鬼灯さんがすわっていたところに腰掛ける。いつも、白澤さんがやっていたように、テレビをつける。
「だって、まだお礼だって言ってないし、言われてもない」
二人が帰ってなんかいないという理由を、自分でこじつける。時計はまわって、もう、私が目覚めてから一時間もたってしまった。私だって、うすうす感づいてはいる。でも、認めたくないだけなのだ。
「……ばっかみたい」
テレビを消して、立ち上がる。自分の部屋にもどって、ふと、窓の外を見て、そして、……身体に震えが走った。なんだ、これは。なんだ、これは、なんだこれは、なんだこれは?
どうして気づかなかった?どうして、どうして?どうして??


……窓の外に見える住宅街は、黒煙をあげて、崩れ落ちていた。



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