夢を見ていると、自覚があった。それでも彼女が動いて、喋っている姿は懐かしくて嬉しい。


「藍君の歌、ちょっと変わったね」

「そうかな」

「昔より歌に感情が籠ってるから、心が揺らぐよ」


もっと聞きたくなる。そう言った彼女を眺めながら、視界はフェードアウトした。
うっすらと瞼を開くと、いつものベッドにいつもと変わりなく彼女横たわっている。カーテンが風になびいて、僕の腕をなぞった。あの事故から2年も経つのに、怪我が完治した彼女の意識は一向に戻らなかった。でも、眠ったままでいる事もひとつの幸せかもしれない。

僕は君と曲を作る事が好きだったし、君の事も嫌いじゃない。だからまた一緒に曲を作りたいし、お喋りもしたい。目覚めて欲しいと僕は願うけど、じゃあ本当に彼女が目覚めた時、僕は現実を彼女に告げる事が出来るのかな。昔の僕ならありのままを言い、君がどうなろうと考えもしないだろう。しかし君が傷つくのが分かっている今、僕は何をどう言えばいい?

彼女が密かに好意を寄せていたレイジも、しょっちゅうお見舞いに来ていたけど、それでも目を覚まさなかった。時は残酷だ…、眠り姫の望む王子様は、もう魔法を解いてくれる事はない。




「…レイジ、結婚するんだって」


ベッドの上で眠り続ける彼女にそう告げても、やはり何の反応も無かった。もしかすると、なんて淡い期待を抱いていた僕の思惑は、ことごとく裏切られる。僕は王子様にも魔法使いにもなれない。心が無いただのブリキでいれたら、もっと楽なのに。


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