いつからだろう、どうしてだろう、彼女と俺の距離がこんなにも離れていってしまったのは。一緒に笑って、一緒に遊んで、一緒に学んで、一緒に生活して、一緒に成長したはずなのに、彼女が選んだのはアーサーで、決して俺ではない事実を、俺はどう受け止めれば良いのだろう。

「ごめんね、アルフレッド」
「なんだい、やめてくれよ」

今なら、冗談だって笑えば許してあげるよ。だってそうだろ。君は今までどんなときだって俺の見方でいてくれたじゃないか。アーサーの力を借りるんじゃなくて、俺だけの力で君を守りたくて、やっとの思いで独立できたって言うのに、君がいてくれなきゃなんの意味もないよ、そうだろ?どうして、アーサーのところに行くなんて言うんだい。どうして俺じゃダメなんだい。もう俺は何も出来ないわからない子供なんかじゃないよ。アーサーにだって負けない、立派な大人だ。

「わたし、アーサーのこと放ってなんておけないの」

ごめんね、とまた繰り返して彼女は俺に背を向けた。「待って」と伸ばした俺の手をすっと交わして、泣きそうな顔で走っていくその後ろ姿に、俺は一体どうすることが出来るっていうのだろう。答えはそう、何も出来ないのだ。雨に濡れた軍服がやけに重たく感じて、どっと疲れが押し寄せてくる。机の上の書類を全部めちゃくちゃに破り捨ててやりたい衝動に駆られたけど、なんだかもう全部疲れてしまったよ。本当なら今頃俺は、アーサーに認めさせた俺の独立と、やっとこの手で彼女を護れる権利を手にしていたはずなのに、なんだってこんな悲しみを抱いて一人踞っていなきゃいけないんだろうか。アーサーに勝ったはずなのに、確かに勝ったはずなのに、本当に欲しかったものは俺から逃げていってしまった事実だけがこの部屋に重い存在感を残しているようで、苦しくて苦しくてしょうがなかった。アーサーはずるい。いつもずるい。俺の本当に欲しいものをいつも横から盗ってゆく。俺なら絶対彼女に辛い思いも悲しい思いもさせないのに、アーサーの隣で泣いている彼女を、俺は救ってあげたかっただけなのに。どうしたって彼女はアーサーが好きで好きでたまらないんだろう。今頃彼女はきっと俺よりボロボロのアーサーを抱きしめて一緒に泣いているに違いないのだ。俺の側にいてほしかったよ。「大丈夫」っていってほしかったよ。本当は不安で不安で仕方なかったのに。アーサーの元を離れて一人で生活することが、怖くてしょうがなかったんだ。アーサーがどれだけ俺を愛して育ててくれたか知っていたから、そのアーサーを裏切って、争って、それでも俺は自由を手にして、誰よりも彼女に祝してほしかったのに、俺が勝ったとき、彼女が言った言葉は祝いの言葉でも労りの言葉でもなく、「ごめんね、アルフレッド」謝罪の言葉だった。どうすれば良かったかなんて聞くつもりはないさ。でも、どうしてこんなに胸が痛くて痛くて苦しいのか、どうしたらこの痛みはおさまるのか、その方法を俺に教えてくれよ。

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