「シズちゃん、ちょっとコンビニ寄ってっていい?」
「そりゃいいけどよ、何か買うのか?」

ちょっとね…といいながらマンション下のコンビニに入っていく臨也を追いかける。俺もついでにタバコを買おうと、レジにいる店員に声をかける。
タバコを買ったところで、

「シズちゃん、プリン食べるでしょ?」

店の奥からコンビニ特有の大きなプリンを2つ抱えて臨也が戻ってきた。

「なんだこりゃ…300gプリン?」
「知らないの?コンビニにしか売ってない、でっかいプリン。結構美味しいよ?途中で飽きるけど。」

と、臨也はプリンをレジに出しながらポケットから数枚の紙束を取り出し、「これもお願いします」と店員に差し出した。

「なんだそりゃ」
「パソコンとか携帯の料金収納。俺のじゃないよ?俺のは銀行引き落としだし。」

じゃあ誰の、と聞きかけた時、料金収納の紙に書かれた名前が見えた。

「オリハラクルリ」
「オリハラマイル」

…なるほど。

「ずいぶん優しいじゃねえか、手前にしてはよ。」
「あんな中2病患者でも一応は可愛い妹だからね。優しい優しいイザヤお兄様は妹の為に毎月払ってあげてるのさ。」

自分の事を自分で優しいなんて言ってる時点で臨也も中2病なのだろうが、臨也自身は自覚が無いらしい。
中2病で厄介なのは他人から言われない限り、自分では滅多に気づかないと言うことだ。

「お会計全て合わせまして20万4596円です。」

とてもコンビニで支払う額ではない数字を目の前の店員は平然と言ってきた。

「…くそ、あいつら俺が払うと思ってバカスカ使いやがって…!!」

臨也が買ったのはプリンだけだ。その金額を差し引いても20万を超える。携帯が2台とパソコンが2台でこの額では相当使い込んでいると言えるだろう。

「あー…20万しかないや。シズちゃん、5千円貸して。上行ったら返すから。」
「持ち合わせ無いのかよ。」
「いや、カードはあるけど料金収納は現金しか使えないんだよね。はい、いいから貸して」





*






結局、臨也に5千円を奪われる形で支払いを済ませ、臨也のマンションに上がり込んで数時間。
そろそろ出なければ終電に間に合わなくなる。
そこでふと、あることを思い出し、ポケットに手を突っ込む。臨也に金を貸したのだ。
今日、俺は財布を自宅に忘れてきていてさっきの5千円は帰りの電車賃にとコンビニのATMで下ろしたものだった。

「おい、臨也。さっきの5千円返せ。」
「あぁ、まだだったね。ごめんごめん。ちょっと待っててー…て、ありゃ現金無いや。取引で波江が持ってったかな…小切手でもいいかい?」

小切手で切符は買えないので電車には乗れない。
金を下ろそうにも階下のコンビニに寄っていたらそれこそ終電は行ってしまう。
まぁ別に歩いて帰れない距離でも無いのでいいのだが。
イザとなればセルティに頼むこともタクシーを使うことも手だ。

「どしたの?小切手じゃ面倒?」
「いや、そうじゃないんだが…あれ電車賃でよ…」

俺は臨也の誤解を招くことを承知であの5千円が今の俺の全財産であることを話した。

「え…、おととい給料日だったんでしょ?なんでそんだけ?」
「財布、家に忘れたんだよ。ま、タクシーでも歩いてでも帰るから安心しろ。なんならセルティに頼む。」

その言葉を残して静雄は玄関へ向かっていく。
何かしらの方法で帰るつもりなのだろう。


「まってよ!」


…ぱしっ

なにを思ったのか臨也は静雄を後ろから追いかけてポケットに入れている右手を掴んだ。「あ?まだなんかあんのか。そろそろ帰るぞ?」
「いや〜、なにで帰るのかなって思ってさ…」

自分でもなぜ引き留めたのか分からない。
でも、なんだか今日はこのまま帰って欲しくなかった。

「いや、普通にタクシーでも拾おうかと思ったが?」
「でも、深夜料金だし高いよ?」
「じゃあ歩く。徒歩で帰る。」

深夜料金を取られるくらいなら歩いて帰った方がマシだ。
池袋から新宿まで電車で10分もかからないし俺の足なら30分もあれば池袋に到着する。

「さすがに真夜中一人はないって。シズちゃんなら身の危険とかは心配無いだろうけど、酔っ払いに絡まれてキレてポストと自販機が飛ぶのがオチだよ。深夜迷惑で住人に通報されて警察に捕まりたいの?ちなみに運び屋はもう寝てるよ?あいつをこんな深夜に起こそうものなら新羅がキレるだろうし」

明日には解剖されちゃうかもねーと臨也は俺の右手を掴んだまま長ったらしい台詞を紡いだ。

「…何がいいたい?」
「分っかんないかなー…シズちゃんは鈍いねぇ。」

いつもの人を喰った時のような笑みを顔に貼り付けたまま臨也は静雄の右手を離して部屋に戻っていく。
臨也は数メートル離れたところで後ろを振り返り、呟いた。



「…泊まっていけばってこと。」





「じゃあシズちゃん、プリンでも食べようか。」

「カラメル入ってねぇんだな、これ。これじゃプリンというより…」

「あぁもう、細かいなぁ。そんなの自分で作れば済むだろ。」

「作れんのか?」

「………。」

「…臨也?」

「…シズちゃんよろしく。」

「手前…」