あの細い指が、薄い唇が、熱い舌が。そのどれもが触れる度に、私は震えてしまう。寒い訳じゃない。怖い訳じゃない。なのに、震える。普段はあちらが震えているのではないかと思う程ひっそりした人なのに。肌を重ねる時だけは、先生はまるで別人だ。悔しくなるくらいに、男の人だというのに、すごく色っぽい。もしかして今目の前にいる男は先生じゃないのかも知れない。だって私は、こんな先生を知らない。指先ひとつでこんなに反応してしまう、私もまるで別人だけれど。天真爛漫な子供のように生活をする自分がこんな艶っぽい声を出せるとは思わなかった。それがひどく恥ずかしくて必死に声を抑えるけど、先生が小さく笑うからそれすら恥ずかしくなる。


「そんなに唇を噛んでは血が出てしまいますよ」

「だっ、て」

「私の前で堪えることはありません、どうぞ存分に溺れて下さい」


低い声が吐息と共に耳朶を撫でる。唇の端に羽根のように軽い口接けを落とされてつい力が緩んだ。そこを狙ってなのか先生の手や唇が縦横無尽に行き来する。心臓も体も、限界が近い。襲い掛かる痺れにどうしようもなくて目を閉じたらただ純粋な闇が広がるだけ。もう、だめ、です。むりです。体が震える。濡れた唇がわななく。縋るように先生の首にしがみついたらお互いの温度が近付いてほんの少しだけ安心した。


「…そのように震えられては少々困ってしまいます」

「え…、っあ」

「丁寧に抱こうとしているのに、煽られては」


そんなつもりは全くないのに、どうやら先生に火を着けてしまったらしい。それでもやっぱり先生は穏やかだ。先生はいつもいつもこれ以上に無いくらい丁寧に私に触れる。そこから生まれる微量の痺れがもどかしくて、もっと欲しくなる。獣のように乱暴にしても構わないのだけど、と何度となく思ったけど口にしたことはなかった。臆病者かと笑ってしまう程の慎重さが先生の良さでもある。私より白い肌も、細い体も、なにもかも、狂おしい。だから震えが止まらない。強く噛んだ所為で歯型がついた唇を先生の鎖骨辺りに押し付ける。先生の動きが止まって、私を見下ろした。


「…もっと、触れていて下さい」

「…本当に、貴女は困った人です」


柔らかな、それでいて強い眼光に曝される。私の肌を撫で上げる手が、睦言を囁く唇が、消え入りそうな先生が、どうしようもなく怖く感じた。体が、震える。だから離さないで、震えも息も止まるくらいに抱き締めて。先生を私に刻んで欲しい。不意に頭の隅で光が弾ける。瞼裏に彩雲が流れて、私の意識は甘くまどろんだ。





昔のものを修正して/点
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -