この前まきびしの訓練があったんだ。思い出すだけで憂鬱になる。訓練と言ってもただまくだけの簡単な内容だったんだよ。簡単な内容、だったのに。まいてる途中に間違って自分の前にまいちゃったんだ。あれは酷かった。足が傷だらけになってすごく痛かったのを覚えてる。自分の前にまきびしをまくってどんだけ間抜けなんだよ。そんな忍者いないっての。

その次の日の訓練も最悪だったんだ。木登りの訓練で、前の日の失敗はしないようにしようって気を付けてたの。手頃な枝を選んでは跳び選んでは跳びあと一息で頂上、って時に足を滑らせ地面へ真っ逆さま。背中から落ちて痛くて痛くて死ぬかと思った。気を付けていたのになんでこうなるんだろう。

そしてまた次の日。これは昨日の話になるんだけど、昨日は石火矢の訓練だった。度重なる失敗に怯えながら火薬を詰めて不安になりながら的に狙いを定めたら、何故だか石火矢が暴発。訓練用だったから火薬の量も少なめにしてあって火傷で済んだからよかったけど実戦だったらわたしは死んでた。大体わたしの火薬の量は完璧だった。それなのに、それなのに。


「それで今日はタコ壺に落ちちゃったのか」

「助けてくれてありがと…」


全部話し終わると涙がぼろぼろこぼれた。しょぼくれて歩いていたら忍たま四年の綾部くんが掘ったタコ壺に落ちてしまったのだ。たまたま通りかかった忍たま六年の七松小平太くんが助けてくれなかったらわたしはずっとあのままだっただろう。わたしが落ち込んでるのに気付いて「何かあったのか?」と言ってくれたから、話してみた。でも気持ちはすっきりしない。もやもやしたまま。小平太くんは何も言わないし。沈黙が嬉しくもあったけどちょっと寂しくもあった。情けないって思ってるのか可哀相って同情してるのか。どっちもかも知れない。…泥だらけだしお風呂行こう。それで今日は寝てしまおう。眠ってしまえば嫌なことを考えずに済む。だけどわたしが立ち上がるのと小平太くんがわたしの腕を掴むのはほぼ同時だった。


「…え」

「私について来い」

「え、ちょ、わっ!」

「いけいけどんどーん!」


小平太くんはわたしを脇に抱えると空いてる手をぶんぶん振りながら走り出した。ついて来いってあんた無理矢理連行してるじゃないか!でも今のわたしに突っ込む気力はない。そうじゃなくても小平太くんのいけどんを止められる気はしないし、ここはおとなしくしとくのが一番だ。

しばらくすると小平太くんは山道に入った。林をひょいひょいくぐり抜けていく。こんな険しい道なのに小平太くんはすごいなあ。自分がどんどんかっこ悪くなる。知らず知らず溜め息を吐き出した。


「とうちゃーく!」

「…到着?」

「ほら見ろ!」


なんだか崖っぷちのようなところに下ろされた。首をかしげるわたしなんかお構いナシに小平太くんは空を指差す。見ればそこには綺麗な夕日が広がっていた。気が付かなかった。もう夕方になってたんだ。


「綺麗だろう?」

「…うん」

「私が落ち込んだ時はよくここに来るんだ」

「…え?」

「私も前にまったく同じ状況でかなり悩んだことがある」


…それって小平太くんがまきびしを失敗したり木から落ちたり石火矢を暴発させたことがあるってことかな。小平太くん、あんなに素早く走ったりするのに。小平太くんは照れ臭そうに笑ってて嘘を言ってるようには見えない。まあ元々小平太くんは嘘をつくような人じゃないって知ってるけど。


「細かいことは気にするな」

「……」

「明日はきっと楽しいぞ!」


そう言って小平太くんは眩しいくらいニッと笑った。ああそっか、小平太くんはわたしを元気付けようとしてここへつれて来てくれたんだ。自分と似てたからほっとけなかったのかも知れない。わたしは頬を伝う涙をごしごしと乱暴に拭った。そうだよね、細かいことを気にしてちゃ忍者にはなれないよね!ありがとう、と言うと気にするな!と返された。その元気な返事が今はすごく気持ちよかった。


「よし!学園まで競争だ!」

「うん!」


いけいけどんどーん!とふたりで無茶苦茶に叫びながら学園に戻った。勿論小平太くんには勝てなかったけどね。それより明日は手裏剣の訓練があるんだけど今ならやれる気がする。わたしの気持ちはすっかり晴れていて、心の底から小平太くんに感謝した。


これはきみの芽
これはぼくの芽





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