突然だけど、わたしはセドル様が好きだ。大好きだ。朝起きる時もご飯の時もトイレの時も仕事の時もお風呂の時も夜寝る時も夢の中ででもとにかくもうセドル様が大好きなのだ。ほんとにもうガチで愛してる。ってジョージョーに言ったら「若いのう」って言われた。恋愛に年齢なんか関係無いね!わたしはセドル様が皺くちゃのクソジジイでも全然ウェルカムだよ。セドル様の目玉コレクションごと愛します。今日も今日とてセドル様の為に超高級目薬を差した。眼球のケアを始めて今日で丁度100日が過ぎる。鏡で自分の目を眺めて何度か瞬いて、ごくりと生唾を飲み込んだ。いける。これならいける。勝つる。わたしは意気揚々と部屋を飛び出した。向かうは勿論愛しい愛しいセドル様の御前!廊下を全速力で駆け抜けていたら前方にセドル様とジェリー様がいた。うおあ見付けたセドル様!はやる鼓動を押さえながらわたしは声を張り上げた。


「セドル様!わたしの目玉くり貫いて下さい!」

「ブバッ」


セドル様の隣でバナナをムシャムシャしていたジェリー様は何を思ったのか突然バナナを吹き出した。気管に入ったのか激しく咳き込んでいる。まあジェリー様は置いといて…セドル様は目をぱちぱち瞬かせたかと思うと、眉間に皺を寄せてべえっと舌を出した。


「またそれかよ。オイラ嫌だって言ったじゃん」

「よ、よく見て下さい!」

「あ?」

「セドル様から拒否されたあの日から今日で丁度百日です、毎日ケアをしました!」

「だから?」

「だ、だから…!」


セドル様はげんなりと言うかうんざりと言うか、物凄く嫌そうな顔をしていた。まさかそんな反応されるなんて思わなかった。予想外の出来事に、わたしは百日前の日のことを思い出す。

初めて顔を合わせたのは約一年前。一目惚れだった。一目で、わたしはセドル様を好きになった。どうしてもセドル様が欲しくて、セドル様に欲して貰いたくて、堪らなかった。想いが体から溢れて襲い掛かりそうなくらいになる。強い愛情は狂気だ。セドル様セドル様セドル様、嗚呼セドル様。あの人の視界にずっといられたら、あの人の傍にいられたなら、なんて幸せなんだろう。セドル様の首にかけられた目玉ネックレスを見つめて、わたしはあることを思い付いた。それは何よりもの名案にさえ思えた。

わたしの目をネックレスにして貰おう。

そうだ。セドル様は目玉フェチなんだから、目玉をあげれば喜ぶ筈。それならわたしの目をあげよう。わたしの目がセドル様のネックレスになるなんて、なんて素敵なんだろう。そう思ったわたしはすぐにセドル様に「わたしの目をくり抜いて下さい」とお願いした。どうせならセドル様の手でくり抜いて欲しかったからだ。だけどセドル様は目を丸くさせた後、顔を思い切りしかめさせた。


「やだ」

「えっ…な、何故ですか?」

「お前の目は要らない」



はっきりきっぱりそう言われて、わたしは針山に叩き付けられたかのような衝撃を喰らった。まさか、まさか断られるなんて思わなかったのだ。きっと喜んでくり抜いて下さると思ったのに。去っていくセドル様を呼び止めることも出来ないくらいショックを受けたわたしは、泣きながら部屋に籠った。何がいけなかったんだろう。わたしの目の、何が。鏡を覗き込む。泣き過ぎた所為だろう、わたしの目は真っ赤になっていた。真っ赤な目。こんな色、セドル様はお嫌いなんだろうか。もっと綺麗な目だったなら、気に入って貰えたんだろうか。

泣きながら、もっと綺麗な目になろうと思った。だって好きな人の為に努力するのって普通だもの。目にいいものを食べて目にいい目薬を毎朝毎晩差した。ケアを怠らなかった。これならきっとセドル様に気に入って貰えると思った、のに。


「何故ですか」

「あ?」

「一体何がいけませんか。わたしの目、猛獣に比べたら小さいし数も少ないですけど、でも色も艶も弾力もいいと思うんです。視力だっていいです。…なのに、何がいけませんか」


ぼろり、大粒の涙が頬を滑り落ちた。セドル様のお姿がぐにゃりと歪む。我慢出来なくなって、わたしは両手で顔を覆った。身体が引き裂かれそうだった。が、がんばったのに。セドル様に好きになって貰えるように一生懸命やったのに。なのに、こんなにも報われないなんて辛い。ケアを続けたお陰であの頃よりは綺麗になったと思う。形だって悪くない。だから、何がいけないのかわたしには分からなかった。


「…あのさあ」


何の抑揚もない、普段通りのセドル様のお声。怒っているようには聞こえないけど焦ってるようにも聞こえない。わたしが泣いてることなんかセドル様にはどうだっていいんだ。わたしなんか、どうだっていいんだ。顔を上げられないままでいたら、カツリと足音がした。俯いたままそっと足元を見たら、すぐ傍にセドル様が近付いている。恐る恐る顔を上げてみた。すぐ近くにセドル様がいる。だけどわたしが声も出ないくらいに驚いたのは、セドル様がなんだかきつそうなお顔をしていたからだった。


「お前の目玉が要らないってのはさ、別に気に入らないからじゃねーの」

「…え…」

「オイラ、お前のこと丸ごと気に入ってるから、目玉もそのままがいいワケ」

「!!!」


ったく、分かれよなあ。面倒臭そうに呟くとセドル様はわたしに背中を向けて歩いて行ってしまった。残されたわたしと離れていくセドル様を交互に見て、ハッとしたようにセドル様を追いかけるジェリー様をぼんやり眺める。ジェリー様、走り方がバタバタしてる。確かセドル様もだいぶバタバタした走り方をしてたっけ。なんだか少しかっこ悪かった気がする。どうでもいいことを適当に考えて、わたしは左右にゆらゆらと揺れながらその場にへたり込んだ。ケア、しなきゃ。目玉だけじゃなくて全身の。膝に落ちた涙は生温かく、なんだか甘いように感じた。





120229
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