歌合わせ
壱
窓の外遣らずの雨に気付いたら
君の両手に梅雨どきココア
(雨)
散り散りに崩れる明日を知らずして
カドを差しだす柔い消しごむ
(消しゴム)
見計らい「中」に設定扇風機
いいあんばいの午後を過ごそう
(扇風機)
黒き板貴殿一時間占有す
是非我が心連れ去り給え
(黒板)
あいさつで精一杯の人だけど
不意に見かけた起きぬけの顔
(うたた寝)
切りとったその時ばかり見つめては
美しさ増すあなたとの日々
(写真)
弐
汗拭う時に外してかけなおす
君のメガネの隙間が大事
(眼鏡)
朝の陽と夕暮れの中イヤホンが
囁く恋の歌をあなたへ
(イヤホン)
参
気崩した浴衣のはしに浮く鎖骨
緩く合わせた襟がさえぎる
(浴衣)
いつもそう吸い寄せられる犬になる
わたしの為のあなたの匂い
(フェチ)
苦労した やっとのことで手に入れた
君を囚える錠を下さい
(略奪愛)
透明の皿に並んだ果物に
くちづけをする赤いくちびる
(夏のお嬢さま)
行儀よく整列中の文庫本
私の中身を静かに語る
(本)
真夏日の宅配便のお兄さん
祖母の注いだ麦茶のみほす
(麦茶)
肆
結構な格差社会の宴会を
真似た青春最後の砦
(文化祭)
カラフルなシュシュを君へと贈るのは
気に入られたい僕のまじない
(シュシュ)
一二段踏み外したの右側の
横顔ずっと見つめてたから
(階段)
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