歌合わせ



窓の外遣らずの雨に気付いたら
君の両手に梅雨どきココア
                (雨)

散り散りに崩れる明日を知らずして
カドを差しだす柔い消しごむ
             (消しゴム)

見計らい「中」に設定扇風機
いいあんばいの午後を過ごそう
 (扇風機)

黒き板貴殿一時間占有す
是非我が心連れ去り給え
(黒板)

あいさつで精一杯の人だけど
不意に見かけた起きぬけの顔
(うたた寝)

切りとったその時ばかり見つめては
美しさ増すあなたとの日々
(写真)




汗拭う時に外してかけなおす
君のメガネの隙間が大事
               (眼鏡)

朝の陽と夕暮れの中イヤホンが
囁く恋の歌をあなたへ
             (イヤホン)




気崩した浴衣のはしに浮く鎖骨
緩く合わせた襟がさえぎる
               (浴衣)

いつもそう吸い寄せられる犬になる
わたしの為のあなたの匂い
              (フェチ)

苦労した やっとのことで手に入れた
君を囚える錠を下さい
(略奪愛)

透明の皿に並んだ果物に
くちづけをする赤いくちびる
    (夏のお嬢さま)

行儀よく整列中の文庫本
私の中身を静かに語る
(本)

真夏日の宅配便のお兄さん
祖母の注いだ麦茶のみほす
  (麦茶)




結構な格差社会の宴会を
真似た青春最後の砦
               (文化祭)

カラフルなシュシュを君へと贈るのは
気に入られたい僕のまじない
              (シュシュ)

一二段踏み外したの右側の
横顔ずっと見つめてたから
                (階段)



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