抱き締めた時に気付く、意外にも筋肉のついた身体だとか、ぬるい体温や顔を埋めた頭の髪の一本一本の細さ、それからにおい。背中の服を躊躇いがちにきゅっと握ってくるぎこちない手のひら。彼を形成する一つ一つが全て愛しく感じて、たまらなくなる時がある。
この腕の中の物が簡単に壊れてしまうことを知っている。脆いことを知っている。そして俺は、壊し方を知っていた。だからこそ、愛しいこの存在を欠片も割れないようにと大切に大切に抱き締める。今まで雑に扱ってきた分、どんな力加減にしたらいいかわからない。
ぎこちなく回した腕に気付いたのか、彼は伏せていた瞳をそっと持ち上げこちらを覗き込んできた。

「佐原、」

名前を呼ぶも、結局言葉は続かない。ばつが悪く視線がさ迷った。すると彼はへにゃりと顔を崩し、こてんと頭を寄せてくる。その温もりに、知らず詰めていた息をそっと吐いた。

「こうすると、あったかいから、俺は好きだ」
「そーか」
「もっと強く」

痛いくらいがいい。お互いの隙間がなくなるほどに。彼は簡単にそう言ってのけ、俺を困らせる。こちらの迷いを知ってか知らずか、彼は笑って難問を繰り出した。
けれどその柔らかい笑顔に、躊躇いは少しずつ溶かされていくのだ。

「苦しくても、知らねえからな」
「苦しいくらいがいいんだ」

なんだそりゃ。と自然と笑みが溢れ、やっとその体を力一杯に身の討ちに掻き込んだ。触れた温度は燃えるように熱い、支えた質量はずしっと重い。痛い、背中に爪を立てられた。

「あー、なにそれ。エロいことしてー」
「それは高校卒業したら」

返事はわかっていたが、妙なこだわりにがくっと頭を彼の肩口へ落とす。本気で致したかったわけではないけれど、卒業したら。卒業したら、かあ。

「いぢわる」
「ちゅーならいいぞ」

ちゅーって。と笑えば、彼はなんだしないのかときょとんと首を傾げた。

「いや、好きだなと思って」
「なんだ。当たり前だ」

眉をきりっとさせた彼に、そうか当たり前かとやっぱり笑ってしまう。こんな所がまあ、好きだ。
結局どちらともなく顔を寄せ合い、触れるだけのキスをした。

2015.0704.
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