「いい加減にしろ」

そう声を上げたのは、隣に立っている今まで我関せずを通してきた生徒会長その人だった。声を張るでも、怒声を上げるでもない、凛としたその声に俺を含めた全員がぽかんと口を開け彼を見やる。
たかだか噂に踊らされ、真実なんて見も知ろうともしない輩を放置してきたのは自分だ。それを事実と受け止め、更なる悪い噂を信じていく悪循環を良しとしたのも自分。誰かが、いつか真実を知ろうとしてくれるような人を、ただただ待っていただけの俺の事なんか知らないで、会長は平然と口を開く。

「たかが噂如きに踊らされるお前らよか、うちの会計は優秀なんだよ。お前らが信憑性のない駄話をしている十分間、うちの会計は書類を三枚仕上げられる」

ぐいっと三本の指を突き出して、はんと侮蔑を込めた笑いを漏らす会長の似合うこと似合うこと。きっと会長が戦隊番組に出ようものなら、世界を救う英雄ではなく世界征服を目論む悪役に大抜擢だ。

「なっ、なにが噂如きだ!コイツが寮部屋に生徒連れ込んだり、空き教室でヤってるなんてみんな知ってんだよ!」
「校内新聞にだって叩かれてんじゃねえか!生徒会会計なんて降りるべきじゃねーの!?」

口々にそう言う生徒たちに、会長は冷ややかな目をくれている。廊下で大騒ぎをしていたためか、なんだなんだと他の生徒たちも集まってきていた。これはもはや俺の公開処刑ではないか。
心臓がばくばくと高鳴る。否定も肯定もしない俺に、非難の目が突き刺さる。こんなもの、別に苦ではない。ただ俺の視線は、堂々と目の前に立つ生徒会長に注がれていた。

「クソ真面目なコイツがそんなこと、やるわけねえだろ。なにも知らねえ奴が勝手な事を言うんじゃねえ。文句があるなら俺のところにきやがれ」

まるで嘘を言っているようには見えない、まさに威風堂々とした態度で、会長はそう言い切った。それに気圧され、文句を言っていた生徒たちもぐっと押し黙る。

「行くぞ、谷町」
「あ、うん」

たった数秒前のことなど忘れたように、会長はいつもの鉄面皮で俺を振り返った。
だけどそのたった数秒で、彼のうつる景色が一変して変わったのは、言うまでもないことだ。

2013.0817.



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