(風紀委員長×生徒会長)




「那波会長?」

ぼんやりと廊下に立っていた彼に、思わず声を掛けた。いつもしっかり者で気丈な彼とは程遠い、どこか苦しげな表情だった。

「大丈夫か、具合の悪そうな顔をしている」

そこではっとしたように、彼は青い顔に片手を添える。それでも様子は変わらない。むしろ泣きそうに顔をくしゃりと歪ませた。

「だい、じょうぶだ。お構いなく」

絞り出すような声でそう言う彼は、頭を振るうとさっと廊下を歩いていってしまった。
引き止めようにも言葉が見つからず、結局見送ってしまう。

「いいんですか、追いかけなくて」

そこで、やっと隣に居た生徒が口を開く。小さく小柄なその生徒は、ふんと鼻を鳴らすとちらりと廊下の先を見つめた。端っこには、生徒たちがチラチラとこちらを見てなにかを囁いている。

「……いいんだ、俺には資格がない」
「資格がなきゃ、声も掛けられないんですか」

それは可哀想に、まるでどうでもいいように小柄な生徒は言った。困ったもんだ、最初はもっとおしとやかだと思っていたのだけれど。けれど反応を示せばそれ以上の応酬を受けるに違いないと渋々口を閉ざす。すると、生徒はそっとこちらに目配せし、悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「ね、僕たち最近カップルに見られてるって、知ってます?」
「はあ?」

突拍子もない事を言われ、開いた口も塞がらない。誰と誰がカップルだって?

「お前みたいなのと誰が付き合うか。ストーカーに遭ってるからって風紀として仕方なく、」

それに、俺が好きなのはーー、と続けようとし、生徒の顔がにんまりと笑みを浮かべているのに気付く。ここ数日で気が付いたのは、その悪魔みたいな笑みを浮かべる時は最高に楽しんでいる時の顔ということだ。

「ま、その想い人にとっちゃ些細なことですよね。僕と委員長が付き合ってるのは」
「な」

慌てて振り返った先に既に彼の姿はない。ここで待っていてくれと一言伝え、廊下を一目散に走り出した。風紀を乱すとか、それどころではないのだ。

そして、そう離れていない廊下の先で、人知れず涙を溢す彼を見つけた。

「違うんだ」

勢いのままに腕を引き、力一杯抱き締める。口からはまるで、弁明するように言葉が溢れた。

「違うんだ、那波会長。俺が。俺が好きなのは、」

大きく見開かれたその瞳が、こちらを捉えた。反射するそこに、必死な自分の顔が写って情けなくなる。

「もういっかい、言ってくれ」

彼はぼろぼろと泣き出した。




好きなのは
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