運動部×生徒会長
話した事もない生徒会長様は、噂に寄れば完全無欠の男。成績は常にトップ。礼儀作法から言葉遣いに至るまで完璧で、気になる外見の方も、遠目に見ただけでも解る超イケメン。イケメンていうのは、美女にも言える事だけど、ハイスペックな内容でプラスアルファに見えるもんだ。歌が上手けりゃ格好良く見える。綺麗なのに天然な一面を知れば可愛く見える。だから生徒会長様は『生徒会長様』になる。親衛隊という名のファンクラブが出来ちゃうくらい、丸で有名な俳優かモデルのように、みんなが憧れる。
その人が、今。
「会長様! 待って下さい会長様!」
ジャージ姿で、親衛隊(男子校なのに見た目女みたい。オカマかな?)の制止も聞かず、俺に真っ直ぐ向かってくるのは何故でしょうね?
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説明に遅れたが、今は放課後、此処はグラウンドである。
何故かと言われれば部活をしているからだ。因みにサッカー。一対一で部員同士がペアを組み、ストレッチを始めるように指示を出した所だった。会長の登場で皆固まっているが。
会長は俺の目の前に立ち、俺を見上げる。…見上げる?
初めて気付いた事だが、俺はでかい方じゃないから、どうも少し小柄なようだ。黒の髪が艶やかで、少し長めの前髪が勿体無い。綺麗な目だ。それに掛る前髪。非常に勿体無い。
「お前、部長か?」
声。何ていう心地良い高さ。男臭くもなく、中性的という訳でも勿論ない。オカマみたいな連中がはしゃぐのも頷ける。
「あ、いや。部長は休み。俺は代理だけど」
「ちょっとアンタね! 会長様にタメ口とか聞いて良いと思ってるの!」
やべえ、オカマ切れた。でも、その瞬間、会長は少し居心地悪そうに目を細めた。俺は会長に視線を合わせたまま「3年で、タメだもんな。タメ口ふつうだよな」言った。会長は酷く驚いたような顔をしたが、すぐに頷き、「うん」と応えた。居心地の悪さは消えていた。
「何か、部長に用だったのか?」
「部長っていうか…サッカー部に」
「へぇ、じゃあ、俺が聴くよ」
会長は俺の言葉に、手に力を入れたように見えた。さっきから彼の変化について表現が曖昧なのは、その変化が本当に小さくて、見落としてしまいそうな物ばかりだからだ。許して欲しい。
ひょっとすると緊張しているのかも知れなかった。注目されて、隣には煩いオカマ生徒。だから俺だけは、気持ちの上でも味方で居てやらなきゃいけない、と思った。出来るだけ急かさないように、待つ。ひたすら。すると会長は意を決したように、口を開いた。
「サッカー、やってみたくて」
「………へ?」
以外過ぎる言葉に反応が遅れた。
「やった事ない。スポーツは殆ど、経験なくて」
「マジかよ。でも成績トップクラスだろ。体育でもやるだろ」
「勉強だろ。体育なんて3以上取った事ない」
これは何と言うか、正に目から鱗。あのハイスペックがテンプレの会長が、体育3だと。ちょっと可愛く思えて笑うと、今度はあからさまにムッとしていた。
「俺、体育だけ5だ。教える? サッカー」
言うと、『体育だけ』と言うのが彼には信じられないみたいで、ぽかんとしていた。オカマが「怪我をされたら大変ですから、おやめ下さい!」と叫んでいるが、気にしない。
側に転がるボールを足で拾い、軽くリフティングし、高く蹴り上げて手でキャッチする。会長は目を丸くして驚いていたが、すぐに輝き、「すごい」小さな声で呟く。
「毎日やってると、凄いとか判らないけどな、もう」
「やってみたい」
「すぐは無理かもよ、ほら」
会長の足元にボールを投げると、少し足を動かしたが、上手く受ける事はやはり出来ない。
「取れない」
「だから、すぐは無理だよ」
「どのくらい練習する?」
「人それぞれさ。俺なんか小学校の時からやってるけど、部長にもなれなかったぜ」
「こんなにサッカー好きなのに?」
俺はちょっと固まった。サッカーは好きだ。でも、才能が大して無い事はとっくに理解済みで、でも高校まで続けてきた。是からも続けると思う。その気持ちを読まれたみたいで面食らったのだ。
すると会長は、更に続けた。
「お前が一番、サッカー好きそうだった。だから、声掛けた。教えてもらうなら、お前が良かった」
「………!」
やべぇ何これ。心臓やべぇよ。そんで、顔熱い。恥ずかしい。でも、嬉しい。そんで、一番やべぇのは、会長の真っ直ぐな目だ。疑わない奴の方が視野が広いというか、色んなものが見えるというが、その通りかクソ。
「リフティング出来るようになるまで、部活来れるのか?」
「来る」
「生徒会の仕事とか、ないの」
「ない」
「嘘ですよね! いつも仕事だからって親衛隊と交流してくれませんよね!?」
「ない。それは言い訳用だから」
「あっさり言い訳とか言わないでくれませんか!」
「ぶはぁ…!」
会長とオカマのやり取りに堪えられなくなり、噴出した。すると、今まで割と表情が硬かった会長が、笑った。
それは自然に。
柔らかく。
陽だまりのような温かさを持って。
ふわり、と、破顔したのだ。
それは彼のイメージを全て変える程の威力を持って俺の視界を奪い、脳を埋め尽くし、遂には心臓が早鐘の如く打ち出した。やばい。今のはやばい。人の理性とか、一瞬で粉砕する。というか、俺の、それ。
「……!!」
「ぎゃぁぁぁぁ何してんのアンタあぁぁぁ!!」
親衛隊うるさいな。敵も多いのかな? でも、もう後には引けない。俺は今の笑顔に一目惚れした。思わず抱き締めてしまう程、可愛い顔した会長が悪い。
会長が、悪い。
だって突き離してくれれば諦められたかもしれないのに、腕の中で顔を真っ赤にして、でも嫌がらないなんて、会長も、悪い。
おわり。
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