外場村特産品販売所



外界から閉ざされたようなこの村に、最近村人以外の人間をちらほら見かけるようになった。
最初こそ気にもしなかったが、その数が日に日に増えだし、さすがに気になり始めた。
観光する場所も何もないこんな村にいったい何の用事があると言うのか。

「ねえ、徹ちゃん。最近村人以外の人を見かけるけど、何かあるの?しかも若い女の人が多いみたいだけど。」

今日も徹の家に遊びにきていた夏野は、徹のベッドに寝転びながら、疑問に思っていたことを聞いてみる。飽きることなく相変わらずゲームをしていた徹は、コントローラーを操る手を止めて夏野の方に振り向いた。

「ん?ああ、何でも村の特産品販売所が出来たとかで、そこが若い女性に人気らしいぞ。」

「特産品売り場?外場村の特産品て……卒塔婆?」

「いや、さすがに卒塔婆が若い女性に人気って事はないと思うぞ夏野よ。」

「じゃあ何?」

「うーん、俺もよくは知らないんだけど。葵なら何か知ってるかな?おーい、葵〜。」

徹が廊下に向かって叫ぶと、自分の部屋にいたらしい葵の足音が近づいてきて、廊下からひょっこり顔を出した。

「ん?何よ兄貴。」

「この前出来た特産品販売所って何が売ってるんだ?なんか人気なんだろ?」

「えっ!!兄貴達知らないの!?」

徹の質問に、何故知らないのだとでも言いたげに心底驚いた葵は、少し困った様に悩んだ後「まあ知らない方がいいかもね。」などと言って一人納得したように頷いた。

「それどういう意味だよ。」

不審に思った俺が問いただすと、ため息をついた後「ちょっと待ってて。」と言って自分の部屋に戻り、一枚の紙を持ってきてくれた。

「んー、まあ知りたいなら教えてあげるけど…。はい、これが特産品販売所で売ってる商品のチラシだよ。」

葵からチラシを受け取ると、横にいた徹ちゃんも覗き込んできた。
そしてそのチラシにはとんでもない事が書かれていたのだ。

外場村名産品販売所、人気商品ラインナップ。
●外場名物「徹夏まんじゅう」
●これで恋愛成就間違い無し「徹夏恋守り」おみくじ付き。
●武藤徹と結城夏野の愛のメモリーDVDセット。
●武藤徹と結城夏野の超豪華ラブラブ写真集。
●室井静信著「徹と夏野の素敵な関係」シリーズ第1弾。
●近日発売徹夏フィギュア限定100セット。

………意味がわからない。
これはいったい何なのだろう?
まんじゅう?DVD?写真集?
理解できない出来事に、自然とチラシを持った手が小刻みに震える。
チラシには隠し撮りされたと思われる、徹と自分が寄り添って微笑みあう写真が載っていた。

「…葵、これ………。」

「あー、うん。…ビックリだよね。はは…。」

「…この徹夏って俺と徹ちゃんの事だよな。」

「そうみたいね。」

「いつから俺達特産品になったんだ……。」

「さあ…。」

いやいや、突っ込むとこそこじゃないだろ俺。

「俺、こんなの許可した覚え無いんだけど…。」

そして更にチラシの一番下には「製造販売桐敷家。協賛尾崎家・室井家」と書かれていた。

「あいつらの仕業か…。」

チラシを持つ手がプルプルと震える。既に怒っていいのか、泣いていいのかすら分からなくなってきた。
同じようにチラシを見ていた徹を見てみれば、普段お気楽な徹ちゃんもさすがにショックだったのか呆然とチラシを見たままピクリとも動かない。

「徹ちゃん、あの、大丈夫か?」

気遣う様にそっと声をかければ、少しプルプルと震えながらこちらに顔を向けた。

「夏野、どうしよう。俺昨日ゲーム買っちゃったんだ。」

「……………は?」

「俺、そんな物があるなんて知らなくて、昨日溝辺町のゲームショップで先週発売したゲームソフトを買ってしまったんだ!知っていればゲームなんて買わなかったのに!!俺のバカー。」

ちょっと待て待て待て。徹はいったい何を言ってるんだ?ゲーム?そんなの今の話には全然関係ないだろ?

「ちょっと徹ちゃん、いったい何を言ってるんだ?」

「だって俺とお前の愛のDVDだの写真集だの、そんなの欲しいに決まってるだろ!?そんな素敵な物と比べたらゲームなんてどうだっていい!俺は昨日ゲームを買ってしまった俺を呪うっ!」

いや、意味がわからない。意味がわからないよ徹ちゃん。ここは普通怒るところだろ?本人の許可無くそんなもの作って販売しやがってーって。なのに何でそんなに悔しそうな顔して打ちひしがれているんだ?そんなにそのDVDや写真集が欲しかったのか?
ダメだ、俺には理解できないよ…。
しばらく床に手をついて打ちひしがれていた徹は、思い立ったように財布を手に取り、中身を確認し始めた。

「ひーふーみー……、やっぱり三千円しかない。葵、三千円じゃそこのチラシに載ってるの全部買えないよな?」

兄と友人の様子を見守っていた葵が急に話を振られてビクリと体を震わせた。

「えっ?あっ、ああ、そうね。三千円ではさすがに無理だと思うわ。でも…兄貴とナツのグッズな訳だし、お願いしたらどうにかしてくれるんじゃない?」

「そうかな?……そうだな、そうだよな!うん、俺ちょっと特産品販売所に行ってくる!」

徹は力強く立ちあがってそう言うと、一応財布を握り締めてすごい勢いで部屋を飛び出して行った。窓の外を見てみれば、猛ダッシュで走って行く後姿が見えた。
取り残され、一人立ち尽くす俺の肩を葵が慰める様にポンポンと叩いてくれた。

こんな村、絶対に出て行って二度と戻って来るものかと決意を新たにする夏野でありました。




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子の話は書いてて結構楽しかったです。
私も欲しいな〜、徹夏グッズwww






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