とーるちゃん?!4



この子供があのタヌキのぬいぐるみのとーるちゃんだって??

普通なら絶対に信じないし、信じられない。
でも、夏野がそんな嘘を言わない事を徹は誰よりもよく知っている。
そして何より夏野の目は真剣だった。
それでもあまりにも現実離れした話に徹はもう一度夏野に確認する。

「この子があのとーるちゃん?」

夏野はコクリと頷くと「見て。」と言って腕に抱いた子供を徹が見やすいように抱え直した。

「ほら、頭の所にタヌキの耳とお尻に尻尾がついてるだろ。飾りとかじゃなくて、これ本当にこの子から生えてるんだ。」

そう言って見せられた頭には茶色いフサフサの耳と、夏野のものらしいブカブカの服をちらりと捲って見せられたお尻にはこれまたフサフサの尻尾が生えていた。
そっとその尻尾に触ってみるとほんのり温かく、そしてピクピクと動いた。

「本当だ、本物の尻尾だ……。」

「信じてくれた?」

不安そうに訊ねてくる夏野を安心させるためにクシャリと頭を撫でてやる。

「もちろん。夏野の言う事だからな、どんな事だって俺は信じるよ。」

そう言うと、夏野は安心したように笑って、強張った体から力が抜けるのがわかった。
可哀想に、ぬいぐるみが急に子供に変わっててどうしていいかわからず、よっぽど不安だったのだろう。そう思うとどうしようも無く夏野の事が愛しくなって、もう一度夏野を抱きしめた。

「大丈夫だぞ夏野。俺がついてるからな。」

「うん。ありがとう徹ちゃん。」

しばらくの間そうやって抱き合っていると、寝ていたとーるちゃんがモゾモゾと動く気配がして、抱いていた夏野を離した。
とーるちゃんは寝むそうに目を擦って大きなあくびをした後、目をパチパチさせながら夏野と俺を何度も交互に見つめた。

「おはよう、とーるちゃん。目さめた?」

夏野がニッコリ笑って、とーるちゃんの頬を指でツンツンつつきながら聞けば、とーるちゃんが嬉しそうに「ほえ。」と返事をした。
こうやって見ていると母と子供の微笑ましい光景に見える。そうなるとやっぱり俺が父親だよな。なんかいいな〜。すげー幸せを感じるぞ。
それにしてもさっきの“ほえ”って何だろう?

「なあ、夏野。さっきとーるちゃんが言った“ほえ”って何だ?」

「え?ああ、あれね。とーるちゃんの鳴き声だよ。」

「鳴き声??」

「そう。こっちの言ってる事はわかってるみたいなんだけど、言葉は喋れないのか、とりあえず返事は全部この『ほえ』なんだよ。そう言えば徹ちゃんもたまに『ほえ』って言うよね。そんなとこまでそっくりなんて、なんか笑える。」

俺ってそんなに『ほえほえ』言ってたっけ?
おかしそうに笑い始めた夏野を何だか複雑な心境で見つめていると、とーるちゃんが夏野の腕から抜け出して、俺の方へとひょこひょこ歩いてやってきた。途中ダブダブの夏野の服に足を取られてこけそうになった所を間一髪で受け止めた。

「とりあえずとーるちゃんの服をどうにかしなきゃだな。」

「そうだね。でも子供用の服なんて無いし、買うにしてもいくら位するんだろう?」

「んー、もしかしたら母さんが俺や保の小さな頃の服を残してるかもしれないけど、問題はどう説明して服を出してもらうかだよな。それにとーるちゃんの面倒もどうやってみて行くか…。」

「うん。」

俺と夏野がとーるちゃんの今後について真剣に考えている中、当の本人は俺の膝に座って着せてもらっている夏野の服を引っ張ったり匂いだりしながら楽しそうに遊んでいる。そんな様子にそれを見つめていた二人の間から思わずため息が漏れた。

「どちらにしろ俺達二人では限度があるし、ここはうちの家族に相談して協力してもらうしかないかな。」

「えっ!でっでも、こんな事信じてもらえる訳ないよ!」

「そうか?大丈夫大丈夫。とーるちゃんの耳と尻尾見せて説明すれば、うちの家族だったら案外簡単に信じるかもしれないぞ。な〜、とーるちゃん。」

膝に座っていたとーるちゃんを抱き上げて視線を合わすと、とーるちゃんは「ほえ。」と言って、わかっているのかいないのか微妙だが、尻尾をゆらゆら揺らしながらコクコク頷いた。

「ホントかよ。まったく二人とも適当なんだから。」

怒っているのか困っているのか微妙な顔をしている夏野に「大丈夫だよ。」と手をとって握り締めながら言うと、どこか諦めたように笑いながら「わかった。」と返事が返ってきた。
二人深呼吸をして、意を決してとーるちゃんの事を家族に相談に行こうと腰を浮かせたその時だった。
突然部屋の扉が勢いよく開かれた。





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徹ちゃんのお膝にとーるちゃんが座るとか、もうパパって感じで萌え萌えです♪





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