怒らないの?



徹の部屋で勉強をしていたが、ペンを持つ手を止めて何となくゲームをする徹の背中を眺めていた。そしてふと思ったのが『徹ちゃんて怒る事があるのかな?』と言う事だった。
昨年の夏に知り合ってから、かれこれ10カ月ほど経つが徹が怒っている所を見た事がない。
自分がどんなにきつい言葉をぶつけようが、殴ろうが蹴ろうが徹はいつもヘラヘラ笑っているか、もしくは捨てられた子犬の様な情けない顔をするかぐらいだ。
腹が立ったり、ムカついたりする事は無いのだろうか?

「ねえ、徹ちゃん。」

「んー、なんだ〜。」

「徹ちゃんてさ、怒る事ってあるの?」

「ほえ?怒る??」

徹はゲームを続けたまま素っ頓狂な声を上げた。
夏野はテーブルの上の勉強道具を簡単に片づけると、のそのそと徹の後ろまでやって来てストンと座った。

「徹ちゃんが怒った所って一度も見た事がないから。」

「そりゃー、俺だって怒る事ぐらいあるぞ。」

「でも、俺がどんなに酷い事言ったり、殴ったりしても怒った事無いじゃん。」

「それは、夏野が殴ったり怒鳴ったりする時って、だいたい俺に非がある時だから俺が怒れる立場じゃないだろ?俺が悪い訳だし。」

「そりゃそうだけど……。」

それでも何だか納得いかなくて、徹の背中にもたれる様に寄りかかる。

「なんだ〜、夏野は俺に怒って欲しいのか?」

「別にそう言う訳じゃないけど。」

夏野はそう言うと、徹にもたれたまま徹の体に手を這わせて脇腹をくすぐった。

「うひゃあああ!なっ、なにおする夏野〜。」

「くすぐってる。あと、もたれてるんだから動くなよ。」

「無理を言うな。そして今ゲームいいところなんだから勘弁してくれ〜。ひゃあっ、くすぐるなって。」

徹の脇腹にあてた手を動かしたり止めたりしながらくすぐっていると、ついにテレビの画面にゲームオーバーの文字が浮かび、何とも悲しげな音楽が流れ、それと同時に徹の口からも悲しげな声が漏れた。

「ひどいぞー夏野〜。あともう少しでクリアーだったのに〜。」

夏野がもたれているせいであまり身動きの取れない徹が首だけを後ろに向けて覗き込んでくる。

「腹たった?」

「ほえ?」

「今、徹ちゃんがもうちょっとでゲームクリアーできるのわかってて邪魔したんだよ。腹立たないの?」

「うーん、別に腹はたたないけど。ちょっと残念なぐらいで。あー、でも…。」

「でも?」

「他の奴にやられると少し腹立つかも。」

「他の奴?俺は?俺だと腹がたたないの?何で?」

おかしな事を言う徹に、もたれていた体を起こすと徹が体ごとこちらに向き直った。

「夏野だと不思議と腹が立たないんだよな〜。腹が立つ前にかわいいな〜って思う。それからギュッてしたくなる。こんな風に。」

そう言って、徹に腕を握られたかと思うと、グッと引っ張られて抱きしめられてしまった。

「ちょっと、離せよバカ。」

「やっぱりこれって愛の力かな〜。夏野の事が好きで好きで仕方がないから、怒る前にキスしたくなるんだ。だからキスしていいか?」

「はあ?もう、意味わかんないし。離せってば。」

徹の腕をはずそうともがいてみるけれど、がっちりと抱きしめる腕は緩められる気配はない。

「やだ、離さなーい。ゲームの邪魔したお仕置きだ。」

お仕置きだなんて言いながらも、徹は満面の笑みで嬉しそうに夏野をギュウギュウ抱きしめて、顔中にキスの雨を降らせてきた。

「もう、やだ。くすぐったいって。」

どうにか腕の中から引き抜いた両手で徹の頬を掴んで顔を離した。

「まったく、いい加減にしろよな。」

「だって夏野がお仕置きしてほしいって言うから。」

「そんな事一言も言って無いから。怒る事があるのかどうか聞いただけだ。」

「そうだっけ?」なんて言いながらとぼける徹の頬っぺたをぶにぶにと引っ張ってやる。

「にゃふの〜、ほっへたがのびう〜。」

頬っぺたを引っ張られて、眉をハの字にしながら情けない声を上げる徹が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれた。

「じゃあ徹ちゃんは俺が何しても怒らないの?」

掴んでいた頬っぺたを離すと、徹はうっすらと目に涙を浮かべながら掴まれていた頬をさすって、「うーん」と唸りながら考え始めた。

「そうだな〜。もし夏野が自分を傷つける様な事をしたら怒るかな。俺、夏野の事がすごく大切だから、夏野の事を傷つける奴は例え夏野本人でも許さない。だから怒るよ。」

何だかとっても恥ずかしい事を言われた様な気がする。
自然と自分の顔に熱が集まってくるのがわかる。
赤い顔を見られたくなくて、プイと顔を背けた。

「バカじゃないの。」

悪態をつきながらも、徹の言葉を嬉しく思っている自分に呆れる。

「仕方ないだろ〜。夏野の事がすっごく好きで、すっごく大切なんだから。」

またギュッと抱きしめられたけど、今度は抵抗せずにおとなしく抱かれてやる。
徹から伝わってくる体温が気持ちいい。

「徹ちゃんは俺にあま過ぎるよ。」

「ん?なんか言ったか?」

「別に、何でも無い。」

徹は自分に優しすぎる。
そうやって甘やかすからつけ上がってしまうんだよ。
わかってる?

「手がつけられなくなっても知らないよ?」

徹の背中に手を伸ばし、夏野もギュッと徹の事を抱きしめた。




---------------
15000hitありがとうございました〜。
感謝♪






「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -