狡いあんたと弱い俺



国道に立ち、ただじっとその道の先を見つめていた。
戻りたいと願うその場所が見える訳でもないのに、見つめずにはいられなかった。

突然手を握られて、驚いて後ろを振り向くと、不安げな表情の徹が手を握って立っていた。
あまりにも不安そうなその様子に、徹の手を振り払う事ができなくて「どうしたの?」と尋ねれば「今すぐ夏野がいなくなってしまいそうな気がして怖くなった。」と言って、握ったままの手にギュッと力が込められた。

「バカだな徹ちゃんは。そんなのまだずっと先の話だよ。」

そう、まだ先の話。

「そうだよな。…ごめん。」

あと2年半ほど先の話。

「何処にも行かないよ。」

今はまだ。

「俺は今、ここにいるだろ?」

握られた手を持ち上げて、自分の頬にあてる。

「徹ちゃんのそばにいるよ。」

「うん。」

不安をかき消すかの様に抱きしめられた。
こんな道の真ん中で、誰に見られるともわからないのに、今は只されるがままに抱きしめられていた。
狡いね徹ちゃんは。
自分はこの村から出るつもりは無いのに、俺がこの村が嫌いな事を知っていながら、そばにいる事を求めてくる。

そばにいるよ今はまだ。
後2年半もすればこの村から出て行ってしまうけど。
この道の先にある場所へ。
それまでは。

でも、この村を旅立つその時、俺はこの腕の中から出る事が出来るだろうか?
徹ちゃんの腕の中は酷く心地良くて、何もかも全て捕らわれてしまいそうになる。
先ほど徹の手を振り払う事すら出来なかったというのに。

あんたの手を離す事ができないのをあんたのせいにするのは俺の弱さ。

狡いあんたと弱い俺。

ああ、やっぱり俺はこの村が嫌いだ。




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徹ちゃんが好きだけど、それでも国道を見つめる夏野は何を考えているのかなと思いつつ、書いてみました。








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