疲れた時は甘い物を



徹の家にやってきた夏野が、部屋に入るなりテーブルに参考書やノートを広げて勉強ををやり出してから、かれこれ2時間が経とうとしていた。

「なつのー、そんなに勉強してて疲れないか?」

「べつに。」

「俺なんか30分で頭が痛くなってくるぞ。」

「徹ちゃんと一緒にしないでよね。てか、30分て短すぎるだろ。普段学校でどうしてるんだよ…。」

夏野が心底呆れた様に問うてくるものだから「あー、まあ適当に。あははは。」と答えると、大きなため息をつかれてしまった。

「でもまあ、そろそろ休憩取った方がいいぞ。飲み物取ってくるから何がいい?」

「んー、ココア。」

「残念。ココアは無いな〜。」

「じゃあお茶でいいよ。その代わりにチョコレートが欲しい。」

「すまん、チョコレートも無かったと思う。」

徹が申し訳なさそうに答えると、夏野が「それじゃ、甘い物なら何でもいい。」と言うので、徹は台所にお茶を入れに行くついでに何か甘い物は無いか探しに行ったのだが、残念なことにこんな時に限って甘い物は見つからなかった。家にあったお菓子と言えばスナック菓子があっただけだった。
仕方なくそのうちの一袋とお茶を持って部屋に戻ると、夏野は相変わらずテーブルにかじりつくように一心不乱に勉強していた。

「夏野、ほいお茶。」

「ありがと。」

「あと、甘い物だけど何もなくてさ。スナック菓子じゃだめか?」

「ダメ。」

一応持ってきた菓子は一瞬で却下された。

「じゃあ自販機でジュースでも買ってくるよ。何がいい?」

「やだ。今すぐ甘い物が欲しい。」

「やだってお前…。台所にも冷蔵庫にも何も無かったんだから仕方ないだろ。」

夏野は「んー。」と唸りながら考えた後、徹の唇に人差し指をあてた。

「知ってる?疲れた時には甘い物がいいんだよ。」

徹は唇を押えられたまま、こくりと頷いた。

「じゃあ、甘いのちょうだい。」

「へ?だから今家には何も。」

「だーかーら。甘いキスが欲しいって言ってるんだよ。うんと甘いヤツをね。」

小悪魔の様に微笑みながらそんな事を言ってくるものだから、徹の心臓がギュッと締めつけられた。

「そんな可愛い事を言われたら、キスで終われないかも。」

「それは徹ちゃんのキス次第なんじゃない?」

「じゃあご期待にお応えしてうんと甘いのを。」

夏野の顎に手を添えると、ゆっくりと瞼が閉じて大きな瞳が隠された。
薄く開いた唇に、始めは軽く啄ばむ様なキスをする。
そろりと舌を忍び込ませ絡めれば、夏野から甘い声が零れた。

「ぁ…ん、ふぁ。」

後ろにまわした手で背中を撫で上げてやると、夏野の体がビクリと震える。

「はぁ…夏野っ。」

「とおるちゃん、もっと甘く俺を溶かして。」

涙で潤み、熱を孕んだ瞳で見上げられて、そんな事を囁かれたらもう止まれなくなる。
夏野との甘い甘いくちづけに、徹の方が溶かされてしまいそうだと思った。
触れた唇から、指先からもトロリと溶けて一つになってしまえればいいのに。

「ああ、一緒に溶けてしまおう。」

何も考えられないくらい甘く溶かして。

疲れた時には、とろける様な甘いくちづけを。




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5月のスパコミとインテで配布したペーパー小説です。
あまあまイチャイチャが書きたくて。





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