入学式 1


-夏野side-

新しい制服に袖を通して、首にはしっかりとネクタイを締める。
今までネクタイなど締める事が無かったので、先日徹に教えてもらったのだが……まあその時の話はまた別の機会に。
とにかく俺、結城夏野は今日から高校生になりました。

今日は入学式だ。
夏野の門出を祝うかの様に空は綺麗に晴れ渡り、学校の校門の脇には大きな桜が満開になっていた。
夏野はその桜の下を一人で潜り抜けた。

本当は今日の入学式には両親と来る事になっていたのだが、急な用事が入り二人とも来れなくなってしまったのだ。最後までどうにかして入学式に行けないだろうかと騒いでいたが、結局どうする事も出来ず、今朝も二人とも未練たっぷりな様子で渋々車に乗って出かけて行った。正直夏野としては二人が来なくてホッとしている。小さな子供ではないのだから両親に来てほしいとも思わないし、返って一人の方が気が楽でいい。
そして何故か徹も夏野の入学式に出るのだと騒いでいたが、そちらは「そんな事したら絶交だからな。」という一言で封じ込めた。それでも多少駄々をこねていたが完全に無視していたら、最後には何も言わなくなったのでこちらも大丈夫だろう。

大丈夫だとそう思っていたのに…何故だろう、新入生や保護者の人だかりの中に何故が見知った人物の姿が見える。
癖のある栗色の髪の毛、人懐っこい笑顔のすらりと背の高いその人物は…。

「徹ちゃんが何でここにいるんだよ?」

「よう!夏野。入学おめでとー。おお!制服似合ってるじゃないか〜。」

今にも抱きつきそうな勢いの徹を思いっきり睨みつけると、地の底を這うような声で話しかけた。

「今日来たら絶交だって言ったよね?」

「ちょっちょっと待て、夏野よ。俺がここにいるのはちゃんと正当な理由があるのだ。」

「正当な理由?」

夏野が心底不審そうに聞き返すと、徹は「そうそう。」と言いながら大げさに首を上下にブンブンと振って頷いた。

「実はだな、今日は入学式のお手伝いでここにいるんだ。」

「お手伝い?」

「うん。人出が足りないから誰か手伝ってくれないか〜って先生に言われてさ。世の為人の為に立候補したわけよ。」

「世の為人の為ね……。」

「人のお役に立てるし、夏野の晴れ姿も見れるしで一石二鳥だろ。」

嬉しそうに胸を張りながら言う徹を見て、始めは入学式に来ると駄々をこねていたくせに最後には何も言わなくなったのはこのせいかと納得した。だが他人の入学式なんぞに来ていったい何が楽しいのやら。
夏野は呆れてため息をついた。

「それでお手伝い係さん、新入生はこの後どうすればいいわけ?」

「ああ、向こうに貼ってあるクラス分けを見て自分のクラスを確認した後、クラス毎にあっちで集合だ。ちなみに夏野は1年A組だぞ。」

「……それはどうも。」

そのまま立ち去ろうとしたらグイッと徹に腕を掴まれた。
何事だと振り返ると、腕を離されてそのまま襟元に徹の両手が伸びてきてネクタイをなおされた。

「ネクタイ、少し曲がってたから。綺麗に結べてるじゃないか。」

「練習したから…。」

本当はネクタイをなおしてくれた事に礼を言おうと思ったが、ふと先日ネクタイの締め方を教わった時の事を思い出してやめた。
そのまま踵を返して立ち去ろうとしたのに、ネクタイをなおした駄賃とばかりにそっと頬を撫でられて一瞬動けなくなった。
徹の温かい手の温もりが自分の頬に移ったのではないかと思うほどに、徐々に自分の頬が熱くなってくる。
心臓がドキドキして、自分に向けられる笑顔から目が離せなくなる。
頬から離れていく手を寂しく思っているとその手で頭をガシガシと撫でられた。
そこでやっと自分が何処にいるのかを思い出して、照れ隠しに徹の手を払いのけた。
「子供扱いするな。」と言って今度こそ踵を返してその場を後にする。
徹と一緒にいると調子が狂う。
イライラしたり、ワクワクしたり、ドキドキしたり。
こんな調子では、これから1年毎日徹と一緒なのだと思うと、自分の心臓がもつのかとちょっと心配になる。

不安と期待でいっぱいの新しい生活の始まりに自然と笑みがこぼれた。





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徹ちゃんと付き合い始めてまだ間もない、初心な夏野さんって感じで書いたのですが、どうでしょうね?(笑)

書いているうちに夏野視点と徹ちゃん視点が書きたくなって、二つに分けました。
とりあえず夏野さんsideを先にアップします。
そしてネクタイの締め方を教えてもらった時にいったい何があったのでしょうね?(笑)
こちらは裏ページにこっそりアップしてます。





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