とーるちゃん?!2



今自分に抱きついているのがとーるちゃんだと言う事は分かった。
にわかには信じられないが、それ以外にこの状況を説明できないのも事実だ。
この子がとーるちゃんであろうが無かろうが、タヌキの耳と尻尾をはやした子供がここにいる事にかわりは無い。
さて、これからどうしようか。
裸のとーるちゃんをこのままにしておく訳にもいかないし。

「はぁ〜。とーるちゃん、これからどうしようか?」

抱きつくとーるちゃんに話しかけると「ほえ?」と言いながら首を傾げた。
うう、すごく可愛い。
このままここでじっとしていても仕方ないので、徹に相談する為に武藤家へ向かう事にした。
手早く着替えた後、とーるちゃんに自分のTシャツとセーターを着せた。かなり大きいが他に何も無いのだから仕方がない。

「とーるちゃん、寒くない?」

「ほえ。」

夏野の大きな服を着て、長い袖を振りながらニコニコ頷く。
どうやら大丈夫なようだ。
着こんだ上着のファスナーを下げて上着の中にとーるちゃんを隠す。隠すと言っても、上着はいかにも何か隠していますと言うようにこんもり膨らんでいるが気にしない………気にしない事にする。とりあえず誰かに何か言われたら逃げる事にしよう。

「ファスナー上げるけど苦しくない?」

「ほえ。」

「いいかとーるちゃん。俺がいいって言うまで出てきたりしゃべったりしちゃダメだよ。」

「ほえっ。」

とーるちゃんは上着の中で俺にしがみついてコクコク頷いているが本当に大丈夫だろうか?少し心配だ。
自分の部屋の扉をそっと開いて、両親がいない事を確認してから部屋を出た。
玄関で靴を履いて、家の奥に居る両親に一言「出かけてくる」と声をかけ返事を待たずに急いで家を出た。
武藤家に向かう途中、誰にも合わないようにと少しビクビクしながら祈る様に歩いた。幸い誰にも会う事無く武藤家の前にたどり着いた時は、はじめてここが田舎でよかったと思った。
さて、武藤家に着いたはいいが徹はたぶんいつも通り自分の部屋でゲームをしているだろう。勝手知ったる徹の家と言えども、まさか黙ってあがる訳にもいかず玄関の扉を開けるといつものように「おじゃまします。」と声をかけた。誰も出てこないうちに徹の部屋に逃げ込もうとしたが、そううまくはいかず、居間からひょっこり保が顔を出した。

「よー、夏野いらっしゃい。ってなんだその上着のふくらみは?何隠してるんだ?」

「あー、うん。ちょっとね。徹ちゃんは上?」

「ああ、っておい、夏野〜?」

保っちゃんには悪いが、とーるちゃんの事をばらす訳にはいかないんだ。
夏野はとーるちゃんを落とさないように気をつけながら早足でその場を立ち去り、階段をのぼった。
徹の部屋に入るなり勢いよく扉を閉めると、やっとここまでたどり着いた安堵からその場にへたり込むように座りこんだ。

「夏野?いったいどうしたんだ、何かあったのか?」

徹は突然の夏野の登場と尋常ではないその様子に驚きながらも、持っていたゲームのコントローラーを放り出して夏野に近寄ってきた。
心配そうに顔を覗き込んでくる徹に一言「大丈夫。」と告げ、落ち着く為に深呼吸をする。

「あのね、徹ちゃん。今日は徹ちゃんに相談があって来たんだ。どんな事があっても、驚かないで落ち着いて聞いてくれる?」

夏野の真剣な様子に徹は始め戸惑っているようだったが、すぐに真剣な面持ちで頷いてくれた。

「絶対に大きな声を出したりしないでね。」

「ああ。分かった。」

夏野はそんな徹の様子に意を決したようにゆっくりと上着のファスナーを下ろす。

「とーるちゃん。もう出てきてもいいよ。」

「え?とーるちゃん?」

「あれ?とーるちゃんもしかして寝ちゃったのか?」

「寝ちゃった?とーるちゃんてぬいぐるみだろ?」

上着の中に向かって話しかける夏野に徹が首を傾げる。
そして夏野の上着の中からスヤスヤと眠るとーるちゃんが姿を現すと徹が固まったのが分かった。






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とーるちゃんは夏野の上着の中が気持ち良くって眠ってしまった様です。










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