一枚の写真2



家に帰ってパソコンで外場村を調べた。
受付の男性が言っていた通り、自分が生まれる数年前に大きな山火事で村も燃え、多くの人が亡くなったと書かれていた。

「外場村……。」

詳しい場所と交通手段を調べてみると、相当な田舎のようで電車を何度か乗り継ぎ最後にはバスに乗るしかないようだ。どう考えても日帰りで行くのは無理っぽい。
カレンダーを見れば、後1ヶ月ほどで夏休みが始まる。

「夏休みまで待つか…。」

土日の休みを利用して行くと言う手もあるが、もうすぐ期末テストも始まる。
夏休みが始まれば友達の家にでも泊りに行くと言って出かければいい。
交通費もお年玉や小遣いの残りが銀行に貯金してあるからそれをおろせば行けるだろう。
だいたいの日程を決め、もう一度詳しく交通ルートを調べた。

何がこんなにも自分を駆り立てるのだろう?
昼間何の変哲もない一枚の写真を見ただけだと言うのに。
その答えがきっとあの写真の場所と名の無い写真家にあるようなそんな気がした。


その夜夢を見た。
燃え上がる炎の中に立って何かを見下ろしていた。
足元には誰かが横たわっていて、自分はじっとその人を見つめていた。
心の中は悲しみで溢れてあるのに、涙は出なかった。どうやって泣けばいいのか分からなかった。泣き方を忘れてしまったのだ。
足元に横たわる人が誰なのかは顔がよく見えなくて分からなかったけれど、自分にとってとても大切な人だと言う事だけは何となく分かった。




1ヵ月後。
かねての計画通り、両親には友達の家に泊まりに行くと告げ外場村へと向かった。
何度か電車を乗り継ぎ、やっと溝辺町と言う所までやってきた。
何処にでもあるような田舎の小さな町。
この溝辺町から外場村へ行くにはバスに乗ることになる。
駅前のバス停で待っていると、10分ほどでバスが来た。バスに乗り込むと、自分のほかには誰も客がおらず、一番後ろの窓側の席に座るとすぐにバスが走り出した。
窓の外の景色は溝辺町を出ると、建物などほとんど無くなり畑や田んぼや山ばかりが広がっていた。
そう言えばいつもこの席に座って、よくこうして外を眺めていたっけ。そして隣には○ちゃんが居て……。

………え?

○ちゃんって誰?

いつもっていつ?

普段自分はバスにはあまり乗る事がない。
通学は電車だし、どこかに出かける際もだいたい電車を使って、バスに乗る事は無い。
もちろん、ここへ来るのだって初めてだ。初めてのはず…。
初めてのはずなのに、溝辺町の駅へ降り立った時から、以前あの写真を見た時の様に懐かしく感じる。
そして懐かしさと共に外場村へ近づくにつれ、切なく哀しい気持ちになる。

なぜ?

そんな自分を乗せたまま、バスは止まる事無くまっすぐと外場村へと走り続けた。


バスを降りると、古びた小さなバス停の向こうには火事から20年経った今でもところどころにその爪痕を残す景色が広がっていた。
村は滅びてしまったと聞いていたが、今でも数件の家で極僅かな人たちが暮らしているらしい。
写真で見たあの薬師さんが、この村の何処にあるのかまでは調べる事ができなかった。
でも、今自分が見つめているその先にあるような気がして、その方向に向かって歩き始めた。
途中何軒か焼けてそのままになっている家を見かけた。
今は瓦礫でしかないその家にも昔は誰かが住んでいたのだろう。

この村を見ていると何かを思い出しそうになる。
でも何も思い出せない。
何かとても大切な事のような気がする。
それが何なのか、後少しで思い出せそうな気がするのに…。


先程バスに乗ったあの時から、自分の知らない記憶が頭の中をちらつく。


『○○、今日俺の家に来ないか?新しいゲームを買ったんだ。』

『いいよ、宿題が終わったら行くよ。そう言えば○ちゃんも宿題あるって言ってなかったか?』

『うっ…。宿題なんて明日学校で適当にやる。』

『何言ってんだよ、○ちゃん。しょうがないな、これから二人で宿題やるよ。ゲームはそれが終わってからね。』

『えー。』

『えーじゃない。まったく。』

頭に過ぎるいつかの光景。
知らない自分と知らない誰か。

一歩進む度に色々な光景が自分の中に浮かんでくる。
その光景の中には必ず一人の青年の姿があって、でも顔がはっきりしなくてわからない……。


俺はこの村を知っているのかもしれない。

ずっと昔。

そう、それはきっと今の俺が生まれる前…。

懐かしく感じるのはきっとそのせいなのだろう。

夢物語のような話だけど、たぶん間違いない……。


自分を大切なもののように○○と呼ぶ優しい声。
自分を呼ぶあんたはいったい誰なんだ?


しばらく歩いていると、道の脇にポツリと目的の物が見えてきた。
探していた薬師さんだ。


『ここの湧き水は薬師さんつって、冷たくてスゲーうめぇの。しかも飲んだら頭が良くなるらしいぜ。』

『ふーん。うおっ!』

『はははは。お前難しい大学受験するんだから飲んどけよ。ほーら。』

『やめろよ!』


ほら、また頭の中に浮かんでくる光景。
夏の日の記憶。
俺に水をかけながら無邪気に笑う○ちゃん。

ゆっくり薬師さんに近づいて水の中を覗き込む。
中には一匹の蜘蛛がいた。


『こいつはこの水の守り神って言われてるんだ。俺が小さかった頃から一匹だけいる。不思議な事に数が増えもせず減りもせず一匹だけ。どうだ、なんかよくねぇ?』


「本当だ。あの頃とかわらず一匹だけいる。」

あの頃とかわらず………。

記憶が少しずつよみがえる。
それとともにぼやけていた青年の顔が少しずつ鮮明になっていく。



「なつ…の?」

突然背後から聞こえてきた声に振り向けば、信じられない物を見るように一人の青年が立ちつくし、自分を見ていた。

先ほどから自分の記憶の中に出てきた青年だった。

「みつけた。俺の、大切な人。」

やっと会えた。そう思った。

ずっと会いたかった。
村が燃えてしまったあの日から。

ずっと好きだった。
あんたが俺を殺してしまったあの日よりも前から。

何もかも思い出した。
あんたが誰で、俺が誰なのか。

どうやって泣けばいいのかさえ分からなかったあの日。
燃え盛る炎の中で胸に杭を刺されているあんたを見た。
看護婦さんと寄り添うように、穏やかな顔をして眠るあんたを見た。
苦しまずに済んだのだろうかと安心したのと同時に胸が締めつけられた。
自分もあんたと同じ所へ行けるのだろうかと、少し不安になった。


ダイナマイトが爆発する瞬間、あんたの笑顔が見えた気がした。


涙があふれた。
人狼となってしまったあの日からずっと我慢していた涙が。


「徹ちゃん。」

気がつけば二人同時に駆け出していた。
強く大きな腕が自分を抱きしめた。
冷たくなんか無い、ちゃんと温かい優しい腕が。
顔を押し付けた胸からは心臓の鼓動が聞こえてくる。
嬉しかった。二人こうして生きている事が。

「ずっと会いたかった。きっと会えると信じてた。謝りたかったんだ夏野に。ゴメン。謝って済む事じゃ無いけれど…。」

徹が続けよとする言葉を口に人差し指をあてて止める。

「謝らないで。本当は誰も悪くなんて無いんだよ。きっと…。」

「夏野。」

「はじめからずっと許していたんだよ。言ったろ?『いいんだ。』って。」

徹ちゃんはいつ昔の事を思い出したのだろう。
いつから俺を待っていてくれたのだろう。
いつから一人で苦しんでいたのだろう。
ずっと俺に許されるのを待っていたの?
あの写真は俺へのメッセージ。
徹ちゃんの思いが俺をここへと導いた。
抱きしめる腕に自然と力がこもる。

「俺も会いたかった、徹ちゃんに。そしてずっと伝えたい事があったんだ。大好きだよ。ずっと昔、徹ちゃんに出会ったあの日から。」

あの時伝えられなかった思いを今やっと伝えられた。

自分より少し大きな手が、頬を伝う涙をぬぐう。

「夏野…。俺も。俺も夏野の事が大好きだよ。」

お互いに伝えたい事はたくさんあった。
でも今はもっと互いを感じていたくて、

眼を閉じれば柔らかな温もりが唇を塞いだ。

あの日止まった二人の時間が再び動き出す。

今度こそ二人でこの村を出よう。
たくさんの思い出と悲しみが眠るこの村を。
もう振り返らない。

俺が望んだのはただひとつ。

徹ちゃんと二人で笑い合えるそんな未来。





後日、あのアトリエの一枚の写真の札が新しいものに差し替えられた。

「“薬師さんの湧き水「夏の思い出」徹”」






例え何度生まれ変わろうとも、必ず俺たちはめぐりあう。





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………撃沈(T‐T)
改めて思う。小説って難しい
書きたい事がありすぎて、もう…。
訳わからんかも。
うわわわわわわわ〜。
アニメ見てない人は絶対わからんよね。




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