寂しさなんて知らない



昨夜降り始めた雪は、一晩で村を真っ白にした。

母の梓に頼まれて、家の前の雪かきをしていた夏野は手を止めて目の前に広がる景色に目をやる。
ただでさえ何も無い外場村が、本当に何も無くなってしまったかのように見渡す限り真っ白だった。
綺麗と言うよりは少し寂しい気さえする。
寂しいと感じるのはこの雪のせいなのか、それともいつも何かと自分と一緒に居たがるあの人が隣にいないせいなのか……。
こんなに雪が積もっているのだから外に出るのも億劫だろう。
ただでさえいつも部屋に引きこもってゲームばかりしているのだから、今日もゲームでもしているのだろう。そんな事を考えながら、雪に突き刺したシャベルを手に取り雪かきを再開する。
しばらくして、作業に夢中になっていた夏野の頬に何か温かい物が触れ、ビックリして後ろを振り向くと、徹が缶コーヒーを手に持って立っていた。

「よっ!お疲れ様。」

「徹ちゃん。」

どうやら頬に触れた温かい物は缶コーヒーだったようだ。

「ほい。差し入れ。」

徹はそう言って、手に持っていたその缶コーヒーを夏野に差し出した。

「ありがとう。それでどうしたの?何か用?」

先ほどまで少し会いたいと思っていた人物の登場に、内心ドキドキしながら訊ねる。

「用ってほどでもないのだが、何となく夏野に会いたくなってな。ダメだったか?」

「…ダメじゃないよ。」

夏野はそう言うと、徹の手を取って自分の頬に持っていく。

「缶コーヒーも温かいけど、やっぱり徹ちゃんの手の方が温かい。」

自分が少しでも寂しいと感じたら、何故かいつも徹がひょっこり現れる。もしかしたら徹は自分の心など何もかもわかっているのではないかと思ってしまうぐらいに。
だから寂しいなんて感じている暇もない。

「そうか?じゃあ、こっちの方がもっと温かいか?」

徹は夏野の頬から手を離すと腰に手をまわして夏野を抱きしめた。
徹の触れる部分から心の中まで温かくなるような気がする。

「確かに温かいけどダメだよ。誰かに見られたらどうするんだよ。」

「んー…。俺は武藤徹じゃなくて、夏野のカイロですって言う。」

「ぷッ。あんたバカだろ?そんなでっかいカイロ邪魔だし。」

「夏野よ、それはちょっと酷すぎるぞ。それじゃあ夏野の部屋でイチャイチャする。」

「そうだな、雪かき手伝ってくれたら考えてもいいよ。」

「了解!じゃあさっさと雪かき終わらせるぞ!」

徹は夏野の手からシャベルを奪うとさっさと雪かきを始める。
そんな徹の姿に苦笑いを浮かべながら、少しぬるくなり始めた缶コーヒーをポケットにしまい、玄関の横にもう一つ立てかけてあったシャベルを手に取った。

徹ちゃんがいる限り、俺は寂しいなんて言葉は知らないで済むのかもしれない。




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夏野を甘やかし隊、隊員一号ゆかりのです(笑)
夏野を甘やかしたくて、甘やかしたくて仕方がないゆかりのなのです。
という事で、徹ちゃんは夏野をいっぱい甘やかすといい!

5000hitありがとうございました〜。





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