怖い夢とぬくもりと



夜中に目が覚めた。
何か嫌な夢を見た気がする。
外はまだ真っ暗で、目をこらして時計を見ればまだ2時半だった。
真夜中の静けさが夏野の不安を掻き立てる。
思わず両手で自分を抱きしめたけれど、得体の知れない不安をぬぐう事は出来なかった。
この暗い世界に自分だけが取り残された様に思えて怖くなる。

隣のベッドでは徹が小さな寝息をたてて眠っている。夏野は少しでも徹の側にいたくて、体を起こすとベッドに寄り添う様に座った。
でも、それだけではやっぱり不安をぬぐい去る事が出来なくて、そっと寝ている徹の手を握ってみた。
触れあった部分から徹の体温が自分の体へと伝わってきて安心する。

「あたたかい…。」

今まで自分の親にもあまり甘えた事などなかったのに、ついつい徹には甘えてしまう。
怖い夢を見たって以前なら平気だったのに、些細な事でも徹を近くに感じたくなる。

「徹ちゃんがいつも俺を甘やかすから悪いんだ。」

握った手に頬を寄せて目を閉じた。
不意に握りしめていた手に力が入ったような気がして目を開くと、いつもの優しい瞳で徹が自分を見つめていた。

「どうしたんだ?怖い夢でも見たのか?それとも俺の事が恋しくなった?」

徹の柔らかい声が優しく自分を包む。

「両方。」

「そんな時はすぐに俺を起こせばいいのに。ほらおいで。」

言われるままに布団の中に体を滑り込ませると、すぐに徹の腕に抱きしめられた。
布団と徹の温もりにほっとする。
すり寄る様に徹の体に顔を埋めると、あやす様に頭を撫でられた。

「落ち着いたか?」

「うん。…徹ちゃんは俺の事甘やかしすぎだと思うよ?」

「そうか?でも、夏野は普段誰にも甘えたりしないから俺にだけはいっぱい甘えたらいいと思うぞ。俺もその方がうれしいし。」

顔を上げると窓から差し込む月明かりに照らされた優しい笑顔が自分を見つめていた。

「そんな事言って、後悔しても知らないからな。」

「後悔なんてしないよ。だからいっぱい甘えろよ。」

クスクスと笑いながら徹が夏野のおでこにキスをする。
夏野は何だか照れくさくて、もう一度徹の胸元に顔を埋めた。
息を吸い込めば大好きな徹の優しい匂いがした。
やっぱり徹ちゃんのそばが一番落ち着く。

「ねえ、徹ちゃん。」

「ん?」

「大好き。」

顔を埋めたままポツリと呟けば、少しビックリしたような気配がした。でもすぐに抱きしめる腕に力がこめられた。

「俺も夏野の事が大好きだよ。」

この腕の中にいる限り、きっともう怖い夢など見る事は無いだろう。
徹の温もりに包まれて少しずつ眠くなってきた。
今度見るのはきっととても幸せな夢に違いない。




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6月の徹夏プチオンリーで配布したチラシの小説です。







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