手 自分の性格がたまに嫌になる時がある。 あとほんのちょっとでも素直になれたらいいのにと。 この意地っ張りな性格のせいで、ホントは触れたいあの人に自分から触れる事ができない。 今だって少し前を歩くあの人の、自分より少し大きな暖かい手に触れたいと思ってるのに。 どうしても自分からはその手をつかむ事ができなくて。 そんな事で少し落ち込んでいる自分が嫌になる。 あとほんのちょっとでも素直になれたら、そうしたらつかむ事ができるかな。 「ん?夏野どうした?」 前を歩いていた徹が、考え込んでいた俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。 「え?あー、何でもない。」 「そうか?ならいいんだが。」 徹はそう答えて何か考えるような素振りを見せたあと、笑顔で急にこちらに手を差し出してきた。 それは俺がさっきから触れたいと思っていた優しい手。 差し出された手の意味がわからず、俺は徹の手をじっとみる。 「えっと、何?」 「手つなごう。」 「はっ?」 徹は俺の答えも聞かずに強引に俺の手を掴んで歩き始めた。 「ちょっと、徹ちゃんはなせって!急になんだよ。」 「夏野知ってるか?俺と手をつなぐと元気になるんだぞ。」 「は?何言ってるんだよ。意味わかんないんだけど。」 「だって夏野があまり元気なさそうに見えたから。」 「えっ?」 驚いて顔を上げると、とてもやさしい笑顔で徹がこちらを見ていた。 「だから夏野が元気になるまでこの手は絶対に離さないからな。」 そんな顔でそんな事を言われたらもう何も言えない。 「何だよそれ…。」 なんだか恥ずかしくて下を向く。 頭の上で徹が微笑む気配がする。 手を見るとさっきまで触れたいと思っていた手が俺の手をやさしく包んでいる。 俺が何も言わなくても徹はいつも俺の心を読んだかのように願いをかなえてくれる。 そうやって俺を甘やかすから、だから俺はちっとも素直になれないんだぜ? 俺が素直になれないのは徹のせいだ。 だから今はまだ甘えていてもいいよね。 きっといつか俺からその手を掴むから。 だから今は。 つないだ手が離れないようにギュッと握り返した。 |