風邪



「徹ちゃんでも風邪引くんだね。」

徹が風邪で寝込んでいると、部屋の入口に夏野が立っていた。

「夏野よ、それはどういう意味だ……。」

「別に意味なんて無いよ。具合どう?」

夏野は部屋に入って扉を閉めるとベットの横に座って徹を覗き込んだ。

「んー、今朝よりかはマシになった。」

徹前髪をかきあげて、おでこに手を置いて熱を測る。

「まだ結構熱いね。薬飲んだ?」

「ああ、さっき飲んだ。」

「じゃあ?何かして欲しい事ある?」

徹は少し考えた後にっこり笑って夏野に答えた。

「色々あるけどとりあえず風邪が治ってからにする。」

「……………あんた今何考えた?とりあえず却下。」

「ええええ〜。」

「えーじゃないバカ。とりあえずおとなしく寝てろ。」

照れ隠しに近くにあった座布団で顔を押さえつけてやる。
座布団の下からは「夏野さん、このままだと風邪が治る前に窒息しそうです。」と言う徹の声が聞こえてきた。
病人なので今日はほどほどで勘弁してやる。
夏野は座布団から手を離すと持参したビニール袋からプリンとプラスチックのスプーンを取り出して徹に見せた。

「プリン買って来たんだけど、食べる?」

「夏野が食べさせてくれるなら。」

「調子にのるな。」

「病人には優しくするもんだぞ。」

夏野はため息をついた後、取り出したプリンの蓋をあけてスプーンですくって徹の口元に差し出した。

「本当に食べさせてくれるとは思わなかった。」

「嫌ならやめるけど。」

「えっ、ダメダメ!食べる、嫌じゃないから。ほら、あーん。」

徹は手を引っ込めようとする夏野を慌てて止めると、口をあける。
夏野はもう一度溜息をつくとプリンを食べさせてやった。

「今までで食べたプリンの中で一番美味しい。」

「大げさだな、これ何処にでも売ってるただのプッ○ンプリンだよ。」

「それでも夏野が食べさせてくれるってだけで、とーっても美味しくなるんだよ。だって、夏野の愛がいっぱい詰まってるだろ?」

恥ずかしげも無くニコッと笑いながらそんなん事を言う徹に、夏野の顔がみるみる赤く染まる。

「ばばばばばバカ!そんなもの詰まってるわけないだろ!」

「夏野は照れ屋さんだなー。」

「徹ちゃん、あまりバカな事ばっかり言ってると容器のままこのプリンを口に突っ込むよ。」

「それは勘弁して下さい。夏野よ、病人にはもっと優しくするもんだぞ。ほらあーん。」

嬉しそうな顔をしてひな鳥の様に大きな口を開けて、プリンを食べさせてもらうのを待っている徹を見ていると、怒る気も失せてしまった。
自然とこぼれる苦笑いと共に小さくため息をつくと、もう一度プリンを食べさせてやった。

「うん。やっぱり美味しい。こんなに幸せなら、たまに風邪を引くのも悪く無いな〜。」

「バカな事ばっかり言ってないで、さっさと風邪治せよな。」

「ほーい。そうだよな、風邪引いてたら夏野とキス出来ないもんな〜。」

夏野はスプーンでプリンを多めに掬うとまだ何か言おうとしている徹の口へと突っ込んだ。

「むぐっ!」

「黙って食え。」

その後も徹に話す暇を与えないように、次から次へとプリンを掬って口に突っ込んで食べさせたので、容器の中のプリンはすぐに無くなってしまった。

「はい。プリンも食ったんだから寝ろ。お休み。とりあえず黙って寝ろ。」

「夏野〜。」

「うるさい。」

徹は苦笑いしながら軽くため息をつくと、夏野の頬へと手を伸ばしてきた。

「ありがとうな。」

「……別に。早く元気になれよな。」

照れて視線を逸らしながら伝えると、頬に触れたままの手がゆっくり動いて撫でてくる。

「うん。」

「徹ちゃんが寝るまでそばにいるからもう寝ろよ。」

「いいよ、これ以上俺の傍にいて夏野が風邪引いたら大変だからな。」

そう言ってスッと頬から離れた手を思わず握り締めた。

「病人はおとなしくいう事を聞くもんだよ。」

「夏野。」

「それに、もし俺が風邪を引いても今度は徹ちゃんが看病してくれるだろ?」

握り締めた徹の手にキスをして布団の中へしまってやる。

「おまじない。風邪が早く治る様にね。おやすみ、徹ちゃん。」

徹ははじめ鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていたが、すぐにへにゃりとしたいつもの笑顔へと変わった。

「何をにやにやしてるんだよ。」

「だって夏野がいつもより優しいから嬉しくて。」

「いつも優しくなくて悪かったな。病人だから仕方かくだよ。ほら、寝ろって。」

「おやすみ、夏野。」

ようやく閉じられた瞳にホッと息をついた。
本当は風邪で体が辛いくせに、なんだかんだ言いながら夏野にに心配をかけないようにと明るく振る舞う徹の優しさに、少し胸がギュッとなった。
こんな時ぐらい徹ちゃんを甘やかせてあげようと思うのに、素直じゃない自分が邪魔をする。
やがで聞こえ始めた規則正しい寝息を確認すると、薄く開かれたその口に夏野はそっと触れるだけのキスをした。

「ごめんね、素直じゃなくって…。早くよくなってね。」




後日、きっちり徹から風邪をもらって夏野が寝込んでしまったのはまた別の話。




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風邪引き王道ネタはやはり書いておきたいとおもいまして。
徹ちゃんに風邪を引いて頂きました(笑)







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