はじめてのクリスマス



12月、溝辺町も町の至る所にクリスマスの飾りつけがされ、町のあちこちでイルミネーションが輝き、店の中や外にはクリスマスツリーが飾られている。小さい町ながらも行きかう人々がどこか浮き足立って見えた。
そして、今夏野の横を歩いている徹もその一人だったりする。

「徹ちゃん、なんか楽しそうだね。」

「だってもうすぐクリスマスだろ?町も飾りつけされて、なんかわくわくしないか?」

「べつに。どうせ俺には関係のないことだし。知ってるだろ?」

日本でクリスマスと言えば、家族や恋人達の一大イベントとなっているが、結城家では親があまり宗教的な事が好きではないと言う理由でパーティーはもちろん、夏野はプレゼントさえもらった事がなかったのだ。

「…ああ、そう言えばお前の親父さん宗教的な事が嫌いだったっけ。」

「そういう事。」

「じゃあ、クリスマスは何も予定は入ってない?」

「当たり前だろ。」

「よし!じゃあ今年のクリスマスは俺の家に来るって事で決まりな!」

徹は夏野の肩に片腕を回して引き寄せると、ニッコリ笑った。

「え、悪いよ。だって、徹ちゃんの家は家族でパーティーとかするんだろ?そんな所におじゃまできないよ。」

夏野が慌てて遠慮すると、徹がため息をつきながら左右に首を振る。

「何を言ってるんだ夏野。水臭いぞ。俺とお前の仲じゃないか。言わば家族も同然。いや、もうこうなったら本当に家族になっちゃうか?いいぞ、いつ俺の嫁に来てくれても。」

「誰が嫁だ。調子にのるな。」

夏野の拳が徹の脇腹にヒットする。

「うぐっ!…調子に乗ってすみません。」

「分かればいい。……それで、いつ行けばいいの?」

「ほえ?」

徹が脇腹を押さえて首を傾げる。

「だから…クリスマス。呼んでくれるんだろ?」

徹の表情がパーっと明るくなって、夏野を背後から抱きしめた。

「もちろん!24日の昼から来い。んで一緒に飾りつけしよう。あー今から楽しみだ〜。」

「だから、抱きつくなってば!」



-*-

学校の帰り、夏野は一人で溝辺町にあるショッピングセンターに一人でやってきていた。
2日後のクリスマスイブに武藤家のクリスマスパーティーに呼ばれた為である。
まさかいつも遊びに行っている時みたいに手ぶらで行くわけにもいかないので、何かクリスマスらしいお菓子でもと思い買いに来たのだ。
先ほど入った洋菓子店でサンタやトナカイの形をした可愛らしいクッキーがあったので、武藤家への手土産はそれにする事にした。
そしてもう一つ買おうと思っているものがあった。それは徹へのクリスマスプレゼント。
まさか自分が誰かの為にクリスマスプレゼントを買う日が来るとは思ってもみなかった。自分ですら一度もクリスマスプレゼントなんてもらった事が無いのに。
でも、徹に何かプレゼントしたいと思ったのだ。

3軒目に入った店で茶色のお洒落な手袋を見つけた。お洒落だけどあまり気取らず、試しにはめてみると、中はふわふわもこもこしていて暖かい。使い心地もよさそうだ。

「これいいかも。値段は……げっ。」

ちょっと高い…。タグを見ると有名なブランド品だった。高い訳だ…。夏野は一応他の店も見てみようとその後色々みて回ったが、結局納得できる物が見つからず、先ほどの手袋を購入することにした。ちょっと高かったけど、徹がはめたところを想像すると自然と笑みがこぼれた。


-*-

クリスマスイブ当日。
夏野は昼食を食べたあと、徹に言われた通り武藤家へと向かった。
武藤家へ着くと小母さんに今日招いて頂いたお礼とこの間買ったクッキーを渡した。それを葵と保が早速あけて、かわいいだのおいしそうだのと騒いで小母さんにお行儀が悪いと怒られていた。武藤家の兄弟はいつも賑やかだ。
その後、徹や保と共に居間の飾り付けが始まった。
徹と保は部屋の壁の飾りつけ。葵は台所で料理の手伝い。夏野はツリーの飾りつけをまかされた。ツリーの飾りつけなどした事の無い夏野は四苦八苦しながらも、街で見かけたツリーを思い出しながら、どうにか飾り付けた。
うん、なかなかの自信作だ。
夏野が満足顔でツリーを眺めていると、壁の飾りつけを終えた徹が声をかけてきた。

「おっ、夏野綺麗にできたじゃないか。」

そう言って徹は夏野の頭をワシワシと撫で付ける。

「これぐらい子供でもできるだろ。頭撫でるなって。」

初めて飾り付けたツリーの出来を褒められて嬉しいのに、何だか照れくさくてついつい憎まれ口をたたいてしまう。そんな夏野の事など全てお見通しとでも言うように徹はにっこり笑って夏野の頭をもう一度撫でた。

「さて、次は料理の準備を手伝うぞ〜。」

その後みんなでフライドチキンやケーキを作った。小母さんの指示の元、武藤家の3兄弟と夏野で作ったケーキは、不格好ながらもどうにかケーキらしい形にはなっている。一番最後に置かれた砂糖でできたサンタクロースの人形が、どこか誇らしげに見える。味の方は食べてからのお楽しみである。
丁度料理が出来上がった頃に小父さんが仕事から戻り、パーティーが始まる。
いつも明るい武藤家の食卓だが、今日はそれに輪をかけたように騒がしいものだった。
パーティーの準備もクリスマスパーティーも、どれも夏野には初めての経験で、それはとても楽しいものだった。
パーティーも終わり、片付けを手伝ったあと徹の部屋でベットに横になる。

「あー、もうお腹いっぱいだ動けない。」

徹はそんな夏野の様子にクスリと笑うと、夏野が横になるベットに腰を掛けた。

「楽しかったか?」

「うん。楽しかった。ありがとう徹ちゃん。」

「どういたしまして。ケーキも美味しかったか?」

徹はそう言って夏野の頬を撫でる。大きくて温かな徹の体温が気持ちいい。
夏野は徹の手に自分の頬を擦りよせる。

「うん。ちょっと不格好だったけどね。美味しかったよ。」

徹が夏野の頬から手を離すと、夏野の目の前に紙袋を差し出した。

「ほい。俺からのクリスマスプレゼント。」

夏野は一瞬何を言われたのか理解できず、キョトンとした表情で紙袋を見つめる。

「…えーっと、俺に?」

「そう、お前に。」

夏野は体を起こすと、紙袋を受け取って徹を見る。

「あっありがとう。」

まさか自分がクリスマスプレゼントをもらえるなんて思ってもみなかったので驚いた。
初めて貰ったクリスマスプレゼント。
しかも大好きな徹からの。
嬉しさと照れくささで自分の顔が赤くなるのがわかる。

「あっ、そうだ。俺も徹ちゃんにプレゼントがあって。」

今度は徹がビックリした顔をして夏野を見つめる。

「俺に?」

「うん。そこに置いてある紙袋。」

夏野はベットの脇に置いてある紙袋を指差した。徹がその紙袋を拾い上げる。

「これか?」

「うん。」

夏野が顔を赤くしたままコクリと頷いた。
徹がしばらく手に持った紙袋を見つめた後、ガバっと両手を大きく広げて夏野に抱きついてきた。

「ありがとう、夏野!俺スッゲー嬉しい!」

徹は抱きついたまま、夏野の首筋にグイグイと顔を埋めてくる。

「バカ、離れろ。くすぐったいって!もう、徹ちゃんは大げさなんだよ。」

「だって、嬉しいんだから仕方がないだろ。」

「わかった、わかったから離せ。ほら、プレゼント開けてみてよ。」

徹はクイッと顔を上げると「ああ、そうだな。」と言って夏野を開放し、プレゼントを開け始めた。
夏野も徹にもらったプレゼント開けてみる。
袋の中には手のひらサイズの箱が入っていた。
…この箱どこかで見た事があるような…。
リボンを解き包み紙を剥がし、箱を開けてみるとそこには茶色い手袋が入っていた。

「あっ!」

同じく夏野にもらったプレゼントを開け終わった徹からも驚きの声があがる。
そして二人の手の中には、全く同じ茶色の手袋が握られていた。
まさか全く同じ手袋をプレゼントし合う事になるとは…。
しばし呆然としたあと、思わず互いに見詰め合って、どちらからともなく笑いだす。

「ぷっ!あははは。まさか同じ物をプレゼントするなんて。」

「ホントだな、いかに俺たちの心が通じ合ってるかって事だな。」

「はいはい、そう言う事にしておいてあげるよ。」

初めてのクリスマスパーティーにおそろいの手袋。

「来年もクリスマスは一緒に過ごそうな。」

「うん。」

楽しくて優しいイブの夜が更けて行く。


初めて夏野の元にやってきたサンタクロースは、夏野が一番大好きな徹ちゃんだった。




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武藤家のクリスマスはきっと賑やかで楽しいと思います。







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