ライバルはとーるちゃん? 「徹ちゃん、またゲームやってんの?」 後ろから聞こえた声に徹が部屋の扉を見ると、袋を抱えた夏野が立っていた。 「よう、夏野。いらっしゃい。」 夏野はベットの脇に持っていた袋を置くと、徹のベットに腰をかけた。 「夏野、その袋なんだ?」 「え、…あー。今日泊まりに来いって言うからその準備。」 「準備?着替えか?」 「まあそんなとこ。」 夏野は今まで何度も徹の家に泊まりに来ているが、着替えなんて持って来たことなどなかったのにと徹は少し不思議に思ったが、まあいいかとその時はさほど気にもしなかった。 しばらくすると1階から保が風呂に入れと言ってきたので、先に徹が風呂に入り、入れ替わりに今度は夏野が風呂に入った。 夏野が風呂から上がる前に布団を敷いてしまおうと、軽く部屋を片付け、客用布団を敷いていると夏野が風呂から帰ってきた。 「徹ちゃん、お風呂ありがと。」 「ちゃんと温まってきたか?」 「もう、子ども扱いするなよな。」 夏野は拗ねたようにプイッと顔を背けると持ってきた袋を開け始めた。 「夏野、今日はどっちで寝る?ベット?布団?それとも一緒に寝るか?」 徹が茶化すように言うと、夏野が顔を上げて睨んでくる。 「ベットで寝る。一人で!」 ムキになる所がまた可愛いんだよな〜とか考えながら徹が敷き終わった客用布団の上に座って夏野を見ると、夏野が信じられない物を袋から取り出していた。 それは、この前夏野の部屋で見たタヌキのぬいぐるみの“とーるちゃん”だったのだ。 「な、…なつの?…それ。」 徹がとーるちゃんを指差して夏野に問いかける。 「ん?これ?とーるちゃんだよ。知ってるだろ?」 「いや、そうじゃなくてだな。何でそれを持ってきてるのかって聞いてるんだ。」 「何でって、抱いて寝ようと思って。」 それが何?って顔で夏野が首を傾げる。 「いや、だっておかしいだろ。この家には俺がいるんだから、とーるちゃんは必要ないだろ?」 「別にいいじゃん。抱いてる方がよく眠れるんだから。……もしかして徹ちゃん、妬いてる?」 図星を指された徹は勢いよく立ち上がると、ベットの上でとーるちゃんを抱いて座っている夏野からとーるちゃんを取り上げた。 「ちょっと!何するんだよ!」 徹は抗議する夏野に背を向けて布団へ戻ると、ギュッととーるちゃんを抱きしめて布団へもぐりこんだ。 「とーるちゃんとは俺が寝る。」 「はあぁ?!」 予想もしなかった徹の言葉に夏野は目を丸くする。 「バカなこと言ってないで、とーるちゃんを返せよ!」 「やだ。返さない。」 夏野はベットからおりて、徹からとーるちゃんを奪い返そうとするが、とーるちゃんを抱く腕はびくともしない。 「そんなに抱っこして寝たいなら、俺に抱きつけばいいだろ!」 心なしなみだ目になってキッと睨んでくる徹に夏野が一瞬ひるむ。 その後夏野は深い深いため息をついた。 「徹ちゃんみたいなでっかいの抱いて寝にくいだろ。」 「そんなのやってみなきゃわからないだろ。」 拗ねる徹に夏野はもう一度深いため息をつくと、ベットから枕を取ってくる。 「分かったよ。じゃあ徹ちゃん、もうちょっとそっちにつめてよ。真ん中に寝てたら俺が入れないだろ。」 「…へ?」 まさか本当にこんな展開になると思っていなかった徹は信じられない物を見るように夏野を見つめる。 「ほら、ボケっとしてないで。」 徹は夏野に布団の端に追いやられると、夏野とは反対の方向を向いて寝かされる。 「さすがに徹ちゃんを抱っこできないから、背中にくっ付いて寝るね。それじゃお休み。」 夏野は部屋の電気を消すと、布団に入って徹の背中に縋りつくようにピタッとくっ付いて寝た。 徹は自分の背中に夏野の温もりを感じて、眠るどころか段々目が冴えてくる。 (夏野さん、自分で言っておいてなんですが、これはちょっとヤバイです。) 背中にくっ付いた夏野が徹の背中に頬を摺り寄せてくる。 (そんな事されると、ちょっとどころか色々結構ヤバイです!) 「あ、そうだ。変な事したら怒るからね。おやすみ。」 きっちり夏野に釘を刺されて、自分から言い出した手前、徹はどうする事も出来ずただじっととーるちゃんを抱いたまま眠れぬ夜を過ごす事になるのでした。 ------------ この間、夏野はきっと徹ちゃんの家にとーるちゃんを持っていくはずとコメントを頂き、私もそう思ったので持って行かせてみました。 徹ちゃんVSとーるちゃん 結局勝者は夏野のようです(笑) 2000hitありがとうございました。 |