胸の痛み 最近気づいた事がある。 どうやら徹ちゃんは髪の毛の長いあの看護婦さんの事が好きなようだ。 だって、いつも優しい徹ちゃんの目があの看護婦さんを見るときはもっと優しくなるから。 ――…そんな事実に何故か胸が苦しくなった。 -*- 学校から帰って今日出された宿題を手早く終わらす。 そしていつものように武藤家へと向かう。 予習と復習はまた帰ってからすればいい。 今や武藤家で過ごすのは日課のようになっていた。 変な話だが、徹ちゃんの部屋は自分の部屋よりも落ち着くし居心地がいい。 この村で唯一好きな場所かもしれない。 そんな事を考えながら夕焼けの中を歩いていると、目指す武藤家の前に人影が見えた。 誰だろうとよく目を凝らして見てみると徹ちゃんとあの看護婦さんだった。 看護婦さんはどうやら散歩の途中らしく犬を連れている。 徹ちゃんはそんな看護婦さんと楽しそうに話していた。 何を話しているのかなんてココからはわからないけど、看護婦さんと話す徹ちゃんの顔がとても幸せそうに笑ってた。 徹ちゃんのあんな幸せそうな笑顔を見たのは初めてかもしれない。 ――また胸の奥が苦しくなった。 気がつけばいつの間にか元来た道を引き返して走っていた。 どうしてもあれ以上前に踏み出す事ができなくて、二人の姿を見ていたくなくて、少しでも早くあの場所から立ち去りたかった。 一度も立ち止まる事なく家まで走り続けた。 帰ってすぐ自分の部屋に駆け込む。 乱れる息を整えながら、とりあえず勉強でもしようと机の前に座ってみた。 だが先ほどの光景が頭に浮かんで、開いた参考書の内容は全く頭に入ってこなかった。 仕方がないので勉強する事をあきらめベットに横になる。 ギュッと目を閉じてみたけど、やっぱり思い出すのはあの二人の事ばかりで胸が苦しい。 自分の事なのにこの前からわからない事だらけだ。 なぜこんなにあの二人の事が気になるのか。 なぜこんなに胸が苦しくなるのか…。 何度考えてみても結局答えは出なくて、その日は朝方まで眠る事ができなかった。 ------------ 続いてます…。 |