寂しくて



3月なんてまだまだ先だと思っていたのに、気がつけばもうその3月で、タイムリミットはもうすぐそこまで迫っていた。
後2週間ほどで俺の相棒、鳴上悠が都会へと帰ってしまうのだ。

毎朝、カレンダーを見ては残された時間の短さに溜息が出る。
日ごとに増す寂しさに目頭が熱くなるのを堪える。そんな毎日。
女々しいとはわかっているけど、寂しいものは寂しいのだ。
もちろん相棒の前ではそんな素振りはチラリとも見せず、今までとかわりなく接している。
だって、俺なんかよりも相棒の方がもっと寂しいはずだから…。


「陽介、今日ひま?」

授業が終わって帰る準備をしていたら、前の席で同じように帰る準備をしていた相棒がそう訊ねてきた。
今日は丁度バイトも休みだったから、暇だと伝える。

「じゃあ、少し散歩して帰らないか?」

もちろんその提案に二つ返事でOKして、二人で学校を後にした。


他愛の無い話をしながら高台までやってきた。晴れているとは言っても、外は結構冷え込んでいて、日陰には数日前に降った雪がまだ溶けずに残っていた。

「なあ、この寒いのに何でわざわざ散歩なわけ?」

「嫌だった?」

「別に嫌じゃないけどさ、寄り道なら愛家とかジュネスでもいいわけだろ?」

散歩が嫌な訳じゃない。むしろ相棒との散歩は好きだ。ただ、この季節に散歩はちょっと寒いと思っただけなのだ。
現に、寒くなってからは愛家やジュネス、または互いの家など寒さを凌げる場所を選ぶ事が多くなった。なのに今日はどうして散歩なのだろうとちょっと不思議に思った事を聞いてみたのだ。

「ジュネスだと店員さんがすぐに陽介を連れてっちゃうだろ?だからダメ。愛家は今日は長瀬と一条が行くって言ってたからダメ。」

「?ジュネスはわかるとして、何で長瀬と一条がいたらダメなんだ?」

「つまり、陽介と二人だけで過ごしたかったって事です。」

「えっ…………。」

予想していなかった答えに言葉が詰まった。

「俺が帰っちゃっても、陽介が少しでも寂しくないように、陽介の中を俺でいっぱいに
しておこうと思ってね。今日から俺が向こうに帰る日まで、少しでも時間の合う時は陽介と過ごそうと思ってる。」

自分の心の中を見透かされていたような気がして、ドキリと心臓が跳ね上がった。
ずっと隠してたつもりなのに、寂しいと思ってる事が傍目にはバレバレだったのだろうか?

「…俺…そんなに寂しそうにしてた?」

「いや、いつもどおりだったよ。」

「じゃあ、なんでだよ?」

「何となくそうかなって思っただけ。」

何となくって何だよ。鋭すぎるんだよお前は。

「そんな事言って……寂しいのはお前の方だろ?」

ヤバイ、目頭が熱くなってきた。

「…うん。寂しいよ。八十稲羽を出て行くのが…陽介と離れるのがとても寂しい。」

ずっと自分が我慢していた言葉を悠にサラリと言われてしまって動揺する。
今までずっとそんな事一言だって言わなかったくせに、今頃何でそんな事を言うんだよ。お前が帰るまで、ずっと我慢しようって決めてたのに。
お前にそんな事言われたら我慢できなくなる。

「…相棒…、ずりーよ。」

抑え切れなかった涙が瞳から溢れて頬を伝った。

「俺もね、ずっと寂しいって気持ちを我慢してたんだ。でも、もう我慢しないことにしたんだ。」

悠の指が陽介の頬を伝う涙を拭い去る。

「陽介にも、寂しいときは寂しいって言って欲しかったから。だから、俺が我慢せずに
素直に寂しいって言ったら、陽介も素直に寂しいって言ってくれるかと思って。」

「…なんだよ…それっ。」

悠の言葉に涙がいっそう溢れてきた。

「陽介。」

優しく名前を呼ばれて、陽介の中で我慢していたものが一気に弾けた。

「そんなの、俺だってスゲー寂しいよ!ずっとずっとお前と一緒にいたいよ!」

「うん。俺も陽介とずっと一緒にいたいよ。」

「でも……そんな事…言ったって…お前は…帰っちゃうだろ……。行くなよ…ずっとそばにいてくれよ。」

言うつもりのなかった言葉がどんどんあふれ出す。最後の方は嗚咽交じりで、涙でぬれたぐちゃぐちゃの顔を隠すように俯いた。
そんな俺の腰に悠の手が添えられて、グッと抱き寄せられた。

「うん。…ごめん。ごめんな。」

別に謝ってほしい訳じゃない。
悠は何も悪くないのだから。
お前は何も悪くないのだと告げたいのに、うまく声にならない。
だから首を振って否定する。
悠はそれでわかってくれたのか、ただ黙って泣きじゃくる俺の背中を優しく撫でてくれた。
本当は悠の方が寂しいはずなのに、何で俺がこんなに泣きじゃくって、悠に慰められているのだろう?本当は俺が悠を慰めなくちゃいけないのに、これじゃあ逆だなって頭の中でぼんやり考えながら、彼の背中に腕を回した。


しばらく二人で抱きしめ合って、漸く涙が止まった頃に腕を解いた。
悠の目元が少し赤く見えたのは気のせいだろうか?
悠に渡されたハンカチで顔を拭いてから、ここが外であった事を思い出して急に恥ずかしさがこみ上げた。
あたりを見回してみたけど、幸い周りに人影は無かった。
自分達が抱きしめあっていた間も、誰もいなかった事を祈ろう。
言いたい事を言って、一頻り泣いたせいか、最近ずっと沈み込んでいた心が嘘のように軽くなっていた。

「あのさ。」

「ん?」

「ゴールデンウィークには帰ってくるんだろ?」

「ああ、もちろんそのつもりだよ。」

「そっか。じゃあさ、また別の休みの時に俺もその…お前のとこに遊びに行ってもいいか?」

俺の提案に、はじめ驚いた顔をした悠は、すぐにとろけそうな程の嬉しそうな笑顔で「もちろん。いつでも歓迎するよ。」って言ってくれた。
よく考えてみたら永遠の別れと言うわけではないのだ。
すぐに会える距離では無いけれど、どうにもならない距離と言うわけでも無い。
どうしても会いたくなったら会いに行けばいいのだ。

「会いに行くよ。会いたくなったらいつでも。だからさ、お前も俺に会いたくなったらいつでも来いよな。」

「ああ。」

お前がこの街からいなくなるって事ばかりに捕らわれていた。
でも、お前が消えて無くなってしまう訳では無いって気づいた。
当たり前の事なのに、それが見えなくなっていた。
少し距離が離れてしまったぐらいでダメになってしまう様な関係じゃない。
例えどんなに離れていたって、俺達は強くつながっているのだから。

「愛してる。」

「俺も。」

離れるのはやっぱり少し寂しいけれど、でも、もう不安じゃない。
見えない絆でしっかり結ばれていると知っているから。




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お友達のともみつさんの為に書いたお話です。
1日半で………。
似た様な話を以前も書いたとか、そんな事そんな事………あるかもだけどごめんwwww



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